世界を救った後のお話

@Oruca

第1話 おはよう「元」勇者

 世界樹を中心に大小さまざまな国家が成り立っていた。

ヒューマン、トールマン、ドワーフ、エルフ、亜人族、海人族。

それぞれの種族が平和を愛し共生していた。

 平和は突如奪われた。魔族の王による戦線の布告。魔族の侵攻は苛烈を極め、大陸の端から齧られていくように攻められ各国々は疲弊していき力尽きた国家から飲まれていった。

 すべての種族の王が結託し「円卓会議」を発足。魔族を、魔王を倒すと誓い合った。

ありとあらゆる種族、精霊、神霊の秘術を駆使し剣をひと振り打った。

「この剣に選ばれしものが魔王を討つ」

という言葉とともに。

円卓は様々な全種族にこの剣に選ばれしもの、「勇者」を募った。

しかし剣に反応は無く、魔族の侵攻速度は増すばかり。

全種族は半ば諦めていた。もう世界は終わってしまうのだと。




 ある日少年が剣を握った。すると剣が光りあたり一面を照らしのだ。

円卓はこの少年を「勇者」とし最後の希望を託した。

流星色の髪と海の瞳を持つ「勇者」の反撃は凄まじかった。

周辺魔族の駆逐に始まり四天王の撃破。そして円卓の、全種族の悲願であった魔王ですら打倒してしまった。しかし勇者も魔王との戦いで致命傷を負い、亡くなってしまった。円卓は勇者の功績を讃え手厚く葬ったという。

                      -旧ルドラント建国記より抜粋






目覚めとは魂が肉体に戻るという行為だ。

そう教えてくれたのは誰だっただろうか。

思い出そうとしたところで意識が覚醒していく。

まるで魂が肉体という袋に乱暴に押し込まれるようだと思ったところで目が開いた。

眼前を覆うのは闇。鼻から入ってくる匂いは古臭くまるで空気が死んでいるみたいだ。霞が抜け切っていない頭で考える。ここはどこなのだろうか、と。

拘束はされておらず椅子に座らされているようだ。座り心地は最悪だ。

手足が無事なのを確認し声が出るのも確認した。声を出そうとしたらまるで声を発するのが久しぶりなのか最初はしゃがれた老人のような声しか出なかった。

「古き友よ、太陽の落とし火よ、明かりを貸しておくれ。」

右手を持ち上げ言葉を紡ぐ。体の中を魔力が循環し持ち上げた手に集中する。

ポッと小気味のいい音を立てながら小さな火の玉が現れ辺りを照らした。

浮き出たシルエットはお世辞にも気持ちのいいものとは言えなかった。

そう。

まるで。

死者が埋葬された聖堂のようだったのだから。

「俺が死んだ・・・?いやそれはない。死んだ時点で俺は生き返る。ならなぜだ?ならなぜ死んでいた?いやむしろどうやって殺したんだ・・・?」

ぐるぐると考えを巡らせ一人言を重ねる。頭を抱えて椅子にうずくまりながら考えても考えても堂々巡りするだけだった。埃臭い陰気な雰囲気も助長して気が滅入りそうだった。

頭をぼりぼりと掻き立ち上がる。関節がパキパキと鳴り動く準備完了といったところだ。まあここから出れば分かるだろ。

あくまで楽観的に。

あくまで前進的に。

埋葬され生き返れども生前の性格あいも変わらず。

この男が世界を救った勇者。

この男こそが聖剣に選ばれた英雄。

いや「元」勇者だったと言えばいいのか。


辺り一面を魔法で吹き飛ばして出ようかと考えていたところにカツンカツンと物音、いや足音が響いた。

最初は自分の足音かと思っていたが音がだんだんと近くなってくる。どうやらこの墓に用があるお客様のようだ。

「死者に面会とか墓荒らし以外に思い浮かばねえな・・・。」

しかも荒らそうとしていた墓の主が生き返っていたというドッキリ付き。ここは速やかに死んだふりをし適当に漁ってもらい素直に帰っていただこう。今は相棒も居ないわけだし寝起きに殺すのはなんか可哀想だ。


椅子に戻り明かりを消し渾身の死んだふりをする。

コツコツコツとはっきりと歩く音が響く。かなり近くに来ているみたいだ。

一旦音が止み何かを呟く声がうっすらと聞こえた。

次の瞬間鈍い音、もはや轟音に近い音が鳴り響き壁の一つが組み変わった。

まるで元からそこにあったかのように扉が現れた。

これは墓荒らしという線はだいぶ薄くなったな・・・と薄目を開けながら思う。

多分ここの管理者か何かだろう。ということは定期的に見に来ているのだろうか?

マメな管理者もいたもんだ。


コンコンコンと扉をたたく音がする。

まるで俺が生き返ったことを知っているかのように。怪訝に思いながらも死んだふりを続行する。死んでます死んでます、絶賛死亡中ですよっと。

返事がないと分かると音の主は扉を開けた。

金属の擦れた音と共に開きお客さんを中へと招いた。

松明を片手にやってきたのは女性、いや女性というには少し若い少女だった。浅黒い肌と流星を梳いたような銀色の髪がよく似合っていた。

その少女は迷わずにこちらにやってきた。

そう目の前に。

松明をかざし少女はじろじろと品定めをするかのように見てきた。見られたとこに穴が空きそうなほどだ・・・。

「気のせいではないな・・・起きているんだろう?勇者?」

いいえ死んでます。死んでいますとも。なんで生き返ったのかは分からないしなんで君のような少女が生き返ったと知っているのかわからないけども死んでいますとも。

「勇者ー!起きろー!!!!!!」

耳を掴まれ叫ばれたとしても起きませんとも。

つーか声が大きい。ゴーレムの起動音かっての。

「なー。勇者ぁー起きろーあーさーだーぞー!」

そう言いながら頬をつつくのはやめていただきたい。穴が空きそうです。

「仕方ないな・・・・」

そうです諦めて帰ってください。なんせ当方死んでおりますのd

そう思った刹那

顔を両手で挟まれ

唇に柔らかく、湿った温かいものが押し当てられる。

事態の理解に脳が限界を突破する。これはもしかしなくても唇!?

「おわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?」

「あ、やっぱり寝てるふりじゃないか。いやこの場合死んだふりか?」

少女の冷静な解説など全く頭に入らなかった。

入るわけないだろう!!??

驚かされた鶏のように慌てふためき混乱する俺をにんまりと満足そうに見る少女。

可愛いじゃねえか・・・・!!

「えっ?急になにしてくれてんの??生前ですらこんな機会なんてなかった俺に何してんのこの子!?!?」

「何ってそりゃあ恋人どうしがすr・・・」

「あああああ!言わなくていいです!!状況が把握できなくて焦ってるだけであってそういう行為が初めてなわけではないですぅ!!」

「えっ?でも今生前ですらって言わなかった?」

「言いました!すいません見栄張りました!」

綺麗に会釈し非を詫びる。これが勇者の実力というやつだ。

ふっと息を吐き心を落ち着かせ改めて少女を見る。

浅黒いというより褐色の肌、銀色の髪に緑の瞳。加えて魔力も相当のようだ。

ということは種族は1つしか無いに決まっている。

「ダークエルフ・・・・」

ぼそっと吐いた言葉に少女は大仰に頷いて肯定してみせた。

エルフとダークエルフは同じ祖先を持つが住む国も気候も違う。エルフは迷いの森と呼ばれる森に精霊と一緒に暮らしておりダークエルフは砂漠に都市を築いて暮らしているはずだ。でもなんでダークエルフがここに・・・?

「自分の紹介をしていなかったな、勇者。余、いや・・・私の名前はニアだ。以後見知っていて欲しい。」

そう述べて軽く頭を下げる様は流暢で無駄がなかった。

考えられるのは貴族、王族、魔道師、その辺だろう。

「俺の名前は勇者。勇者ディリエット=フォン=スーリアだ。」

少女の、ニアの名乗りの後こちらも名乗る。

とニアが懐かしそうに目を細めゆっくりと噛み締めるように頷いた。

まるで古い友に再会したかのように。

まるで俺の名乗りを待っていたかのように。

そうして彼女はこう告げた。



「おはよう。「元」勇者」


と。



















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