第3話

 しばらくマスターと三人でのおしゃべりを楽しんだ後、多島くんと由希乃は喫茶店を後にした。店を出た由希乃はすっかりご満悦で、多島くんは彼女を連れてきて良かったと思った。


 数駅分、と家からずいぶん遠くまで来てしまったが、二人きりの時間を惜しんでか、由希乃は歩いて帰ることを選んだ。


 人気のない線路際の道を歩いているとき、どちらともなく手をつないでいた。


「なんか、こうして手をつないでると恋人同士みたい」

「えっ……ち、ちがうの?」


 多島くんが青くなった。


「あああ、そうじゃなくって……恋人同士っぽいなあって」

「なんだ、びっくりした。おどかさないでくれよ。ただでさえ……俺、心配なんだから」

「何が?」

「年の差が。いつ捨てられるかと思うと、たまに眠れなくなることがある……」

「気にしすぎだよぉ……。それに年より見た目すごい若いし、そこまで年離れてる感じしないし。十歳差なんてわかんないよふつー」

「それって童顔って意味?」

「いやそういうアレじゃないから、違うから。それに」

「それに?」

「私、年上の人すきだから。うん、だいじょうぶ。お兄ちゃんとかなり年離れてたし」

    

「そ、そう? ……ほんとに大丈夫?」

「だーいじょうぶだってば。それに、こないだママが言ってたよ」

「なんて?」

「ある程度大人になったら、十歳程度の差はあんま関係なくなるからって」

「まあ、それはそうだけど……俺の方が先におっさんになっちゃうじゃん」

「だいじょうぶだよ。すぐ追いついて私もおばさんになるから」

「……おばさんになっても俺と一緒にいてくれるの?」

「え、ちがうの? 私ほかの人と結婚しないとダメ?」

「イヤイヤイヤイヤ、そんなことない。っていうか俺と、俺、と……」


 多島くんは立ち止まった。

 何かを言いよどんでいる。

 由希乃が振り返った。


「どうしたの?」

「――こういうのってさ、もっと、ちゃんと用意とかして……然るべき場所と然るべき時間に……その……」

「え? 何のこと?」


 多島くんは、額を手で押さえると、くっくっく……と笑いだした。


「また俺は……一人で考えすぎて……。いや、これは由希乃ちゃんが悪い」

「はーっ? ちょ、なに私が悪いことになってるの?」

「まだわかんない? 由希乃ちゃんが俺に言わせようとしてることって」

「ことって?」

「プロポーズでしょ」


 由希乃はその場でちいさく跳ねると、顔を真っ赤にした。

「え、え、えええ、そ、そう、そそそそそういうこと……なの?」


 多島くんは腕組みをして、うんうん、とうなづいた。


「そういうこと。で? 由希乃ちゃん的に、いま、ここで、そういうの、やっちゃっていいわけ? ときどき電車が真横を通過する、ただの道ばたで」

「よ、よよよよ、よ、よく、よくないっ!」

「ま、するのは確定として……今度でいいかい?」


 由希乃はブンブンと全力でうなづいた。


 多島くんは小声でぼそぼそつぶやいた。

「俺だって……ちゃんと指輪ぐらいあげたいんだよ……」

「何か言った?」

「いーや。じゃ、帰ろう」

「うん!」


 二人は、つないだ手をぶんぶんと元気よく振りながら、日の傾きかけた歩道を歩いていった。



===================

お読みくださりありがとうございました!

お話は一旦ここまでになります。


お楽しみになられましたら木戸銭代わりに

☆を投げて頂ければ幸いです。


また、作者フォローも頂けたら幸いです!

===================

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

完結【年の差カップル】本屋のお向かいの多島くんと私について 東雲飛鶴 @i_s

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ