クの子供たち

クの子供たち

 まだ幼いクの子供たちが整列し、行進していると、


   クククククク々ククク


 何やら一人だけ、毛色の違う子が混じっていた。


 ク「おい、お前だけなんだかヨタヨタしていて、動きが鈍いぞ! ククク……」

 々「どうしても引きずってしまうんだよ。この、下の方のストッパーが邪魔になってね……」

 ク「ストッパーなんて意味ないだろ? そんなもの付けて、どうするんだよ?」

 々「ま、最近その、そういうのが流行してるからね……、NYとかでね……」

 ク「お前あれだろ? 複雑骨折かなんかしちゃって、固まったら変な風になっちゃってるやつ? ククク……」

 々「ちっ違うよ! こうやって、前に、進む、こと、が、で、」

 ク「無理すんなって! じゃあな!ククク……」


   クククククククク……     々


 すっかり置いていかれてしまった。

 あざ笑いながら去ってゆくクらの背中を見つめる々の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。


 久「あっ、お前!」

 々「はい?」

 久「こんな所で何やってんの?」

 々「えっ?」

 久「おいおい! 俺だよ、俺!」

 々「ええと、その……」

 久「お前の父ちゃんだよ! 久しぶりだからって、忘れたのか?」

 々「お父さん? そういえば格好が……」

 久「そっくりだろ? 親子なんだから、そりゃ似てるって!」

 々「本当に、お父さん?」

 久「おう、そうだとも!」

 々「お父さんだ!」

 久「息子よ! 実は相談したいことがあるのだ!」

 々「何?」

 久「ちょっとでいいから、お金を貸してくれないか?」

 々「貸せるほどのお金なんて持ってないよ! 子供なんだから!」

 久「それならもう、親でも子でもねえ! あばよ!」


 久は言うが早いか、走り去っていった。


 々「何だよまったく……怪しいなあ」

 タ「あらっ? お前……? お前なのかい?」

 々「はい?」

 タ「はい? じゃないよ。こんなにそっくりなおっ母さんのこと、忘れちまっタのかい?」

 々「またその手口かよ! 誰が信じるか!」

 タ「無理もないね……。文字の成長速度ときたら、人間の一億万倍……。生まれタばかりの可愛いお前を、クの群れに置き去りにして行かざるを得なかっタ、おっ母さんをどうか許しておくれ」

 々「え? 本当に?」

 タ「嘘を言うもんですか! それとも、タっタひとりのおっ母さんの言葉を、信じられないとでも言うのかい?」

 々「でも、格好が似てないし……」

 タ「そうやって、疑いの目つきでおっ母さんを見ても……、何も解決なんかしやしないよ!」

 々「じゃあ、どうすればいいんだよ!」

 タ「気合を入れて、ターッ! って言ってごらん! タになれるから!」

 々「……ター」

 タ「それじゃ、少しも気合いが入ってないんだよ! もっと本気でおやり!」

 々「ター!」

 タ「そうそう、その十倍くらいの声を出してみな!」

 々「ターーーッ!」

 タ「もっとだよ! 腹の底から、百億倍の声を出してみな!」

 々「ターーーーーーーーーーーーーッ!!!」


 その時、々の体が光に包まれ、輝き始めタ!


 タ「あれ? どうやらタになっタらしいぞ?」

 タ「おめでとう! ついにあんタも、タの仲間入りだよ!おっ母さんも鼻がタかいよ!」

 タ「やっター! これで僕も一人前……、かな?」


 すると、向こうからタタタタタ……、と仲間タちが駆け寄ってきタ。


 タ「お前、とうとうやりやがっタな!」

 タ「あ、有難う! タ同士、よろしく!」

 タ「こっちこそ、よろしくだぜ! なあ、みんな!」

 タ「おう!」

 タ「ヒューヒュー!」

 タ「お前、すげェよな!」

 タ「よく頑張っタぞ!」


 タは、大勢のタらに囲まれて拍手喝采を浴びた。


 タ「お前、本当にすごいぜ! 輝いてらあ!」

 タ「そうかな……、それほどでも……」

 タ「いや、俺たちは、もともとクの子供だっタんだけどさ。タに憧れてタんだぜ……」

 タ「そうだっタのか!」


 タは驚いタ。


 タ「一列に並んで、歩いて市役所まで行って、ズラーッと申請手続きに並んでさ、やっと棒を一本ずつ支給されて、それでやっとタになれタって訳よ」

 タ「そういう手続きの列だっタんだ?」

 タ「あせって棒を後ろにくっ付けちまってさ、最終的に漢字の久になっタみてえな、恥ずかしい奴までいたぜ……」

 タ「……まあ、色々あるんだな……」

 タ「中にゃ間違って、前髪を切っちまって、とうとうフにまで堕ちてっタ奴もいたっけな……」

 タ「そういう、フ幸な奴もいるってことか……」

 タ「お前のストッパーのこと……、あん時ゃ、馬鹿にしてご免な。許してくれよな!」

 タ「構わねえよ、ちっとも気にしちゃいねえぜ!」

 タ「お前、自分の一部を自力で伸ばしてタになっタなんて、タいしたもんだぜ! 根本的に気合いが違うよな!」

 タ「いやいや、過去のことは水に流して、これから仲良くやっていこうぜ!」

 タ「そういえば、あのNYで流行してるとかいう、ストッパーの部分は?」

 タ「ああ、あれか? 今じゃググッと、この胸のあたりに入ってるって寸法だぜ!」

 タ「すげえな! 兄貴って呼ばせてくれよ! 一生ついていくぜ!」

 タ「おう、俺は成長が早いからな……、振り落とされるなよ?」

 タ「おー!」


 こうして皆で元気よく、タタタタタタタ……と駆けていっタのである。

 あしタに向かってか、夕日に向かってか、作者にはよく分からないが、とにかく駆けていっタ。

 当初 「醜いアヒルの子」風の感動をお届けする予定で書き始めタつもりが、結局は明るい結末になってしまっタ。


 教訓:創作は思い通りにはいかない

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クの子供たち @-me

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