実力差

『魔術学園・第三闘技場』


「あれは……」


 思わず、息を呑んだ。


 目の前の光景に。


 いや、息を呑んだのは、他の観客達も同様だろう。


「リーゼさん。これの原因ってルリアさんの魔法にあるんですか?」


 しかし唯一、隣に居るリーゼはその目の前の光景に目を見張ることもなく、平然としているため、駿は何かを知っていると思いたったのか、質問する。


「はい。これがルリア様の魔法……いえ、ルリア様だけの魔法の方が正しいでしょう。【七精霊の宴】という魔法で、世界初の多精霊使役魔法といわれています」


「……っ!」



 ──駿達が見ているのは、七つのそれぞれ七色にぼんやりと光る、球体の形をした精霊をルリアの周りに従えさせ、現に火を付加(エンチャント)させたダガーで速攻し、そのまま攻撃速度を生かした相手の高速で様々な方向から振ってくるダガーを、ことごとくそれぞれ色が異なる七色の精霊らが打ち落とし、攻撃がルリアに一太刀も通らない──そんな余りにも一方的な光景だった。


 逆に、先ほどから攻撃し続けているのはクアーリーという相手の女子生徒だが、それでも、いくら馬鹿でも、何度攻撃しても、振ったダガーが跳ね返されているという光景をみれば、どちらが体力を温存し、どちらが後半有利になるか理解できる。


 ルリアに相対するクアーリーは、序列十九位という、学園でも指折りの実力者な筈だ。


 しかし、ルリアはそれ以上の序列五位という、片手で数えられるほどの実力を持っている。


 五位と十九位。学園という、しかも生徒同士の実力の単位であれば、それほど差は開いていないと思うだろう。


 だが、そんな考えはどうやらこの学園にはなく、『学園十階(アナザーテン)』という、序列十位から特別な括りがされているらしい。


 そして、リーゼにまた詳しく教えてもらうと、その『学園十階(アナザーテン)』は必ずしも毎年すべて埋まる訳ではなく、本当に才に恵まれていなければ入ることさえままならないという。


 まとめると、学園、というより国から認められた、エリートの中のエリートが『学園十階(アナザーテン)』。

 そして、その『学園十階(アナザーテン)』という天才集団の中でも五位という地位を確立しているルリアと、学園序列十九位程度の実力者では、話にならないということだ。


 つまり、この試合は、戦い始める前から既に結果は決まっていたことになる。


 八百長でもなんでもなく、ただ純粋な実力に大きな差があり、既に勝負は決まっていたのだ。


「はあっ……! はあっ!──」


 観客席からも、クアーリーが体力を落とし、肩で息をしているのが明白だった。


 一方、ルリアは全く試合前と思うほどに疲れてないどころか、汚れ一つさえ制服に付着していない。


「コンドウさん。ルリア様の実力、しかと御覧に入れましたか?」


 満面な笑みでそう聞いてくるリーゼに、駿は苦笑する。


「ええ……それはもう」


 試合も終盤。


 互いに疲弊しているわけでもなく、ただ一方の全ての攻撃がことごとく防がれて、五分が経過した頃。


「そろそろ終わりですかね」


「そうですね。コンドウさん」


 ──それまで、一歩も動かずに、ただ敵からの攻撃を従えさせた七精霊に防がせていたルリアが、初めて行動する。


 周囲は興奮のあまり、固唾を飲んで見守るなか、ルリアは持っている魔導書を真上に投げ上げた。


「……!」


一体、何をする気だ……


 興味と困惑が交わった思いで、試合を見届ける駿。


 空中を飛翔する魔導書は、やがて勢いを無くし、頂点で独りでに空中で浮遊し、パラパラとページが捲られる。


 捲られる度に、段々と微かだった青白い光が膨れ上がってくる。


 ルリアは何かをしようとしているのは明白なため、クアーリーはすかさず、疲弊したからだに鞭を打って、攻撃を再開させる。


「【火よ。我に纏え──付加(エンチャント)】」


 自身に火を付加することにより、熱さによるスリップダメージと引き換えに、力を増加させる。


「はあッ!!」


 ──上段から斬り下げ、下段から斬り上げ、一歩踏み込み、ダガースキルである五連斬りをする。


 ──すかさず一歩下がり、回し蹴り。

 

 ──回し蹴りによって回転させた勢いそのままに、左足を軸として回りながら、大きく一回両足を曲げて、今度は思いきり斬り上げる。


 ──斬り上げた拍子に、そのまま跳び、ルリアの精霊を飛び越して、後ろからダガーを突き立て突進するも




 ──キイィイイン





 辺りに、虚しく響き渡る甲高い金属の音響。


 これほどの一連の動作を、精霊達は分かっていたかのように全て防いだ。


 もう、クアーリーは身も心も、うちひしがれていた。


 身体は疲弊し、どんな技を以て戦い続けたとしても、全てが弾き返される。


 そうクアーリーが諦めかけた途端、ルリアの真上に浮游する、溢れんばかり光量を増した魔導書。


 先ほどから捲られていたページが、あるページに止まり、最大量の光を放ち始めた時


「【水よ──」


 美しい詠唱が、闘技場に響き渡る。


「炎の侵攻から我を護りて──」


 誰もが、その詠唱に聞き入り、そして聞き惚れた。


「約定の鎖によって、鎮まらすものなり】──」


 詠唱が完成する。





「【水民を守護する海の鎖(プロテクションウンディーネチェイン)】」



 突如、魔導書から青白く発光する、無数の鎖が現れる。


「あの鎖って……もしかして全部水で出来てるのか?」


あれほど正確に鎖を造形するのか……なんて魔法力と集中力なんだ


 驚愕している駿をよそに、闘技場の雰囲気は最高潮に達していた。


 


 現れた無数の水の鎖は、火を自身に付加させているクアーリーの方へ、一直線に飛翔し、声にする間もなく、一瞬にしてクアーリーを覆った。


「勝負、合いましたね」


 隣でそう微笑むリーゼに、「……そうですね」と、ルリアの魔法力に圧倒されたまま、呆然と返すのだった。


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ボッチはハズレスキル『状態異常倍加』の使い手 水源+α @outlook

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