13 一人ぼっちの誕生日?
それから五日後の四月十六日、日曜日。
菜々子は、一人でさびしい誕生日をすごしていた。
「あのちびっ子は、朝早くからどこへ出かけたのかしら? スミレまでいないし……。きっと、あの子も今日は誕生日だから、仲のいい
そうブツブツ言いながら菜々子が家の縁側でゴロゴロしていると、仙造がやって来た。
「菜々子。何をそんなにふてくされているのですか?」
「別にふてくされてなんかいません」
「あなたがほっぺたを風船みたいにふくらませているのは、怒っている時か、ふてくされている時だから丸わかりですよ。誕生日なのに、桜子さんがいなくてさびしいのでしょう?」
「な、何を急におかしなことを言っているのですか、お父様! あんなさわがしいちびっ子、家にいなくてせいせいしています!」
菜々子はあわてて体を起こし、仙造に食ってかかった。
仙造は「やれやれ、素直じゃない子ですね」と言って、おだやかに笑う。
「本当は、桜子さんに意地悪なことを言ったり、冷たくしたりして、後悔しているのでしょう? 桜子さんが優しくていい子だと知っていても、
「……お、お父様にわたしの気持ちなんて……」
「わかりますよ。あなたの父親なのですから。そして、あなたが人一倍さびしがり屋で、母親の愛情に
菜々子、ごめんね。カスミが……お母さんが亡くなった時、わたしは悲しみのあまり、母親と死に別れた柳一や菜々子の心の傷に気づいてあげることができなかった。長い時間をかけて自分が立ち直るだけで精いっぱいだった。そのせいで、大切な子供である二人を愛情不足のまま成長させてしまった……」
「お、お父様……。やめてください。わたしは、お父様にあやまってほしくなんか……」
カスミの死は、仙造にとってもショックなできごとだった。愛する妻を失ってぼうぜんとしてしまうのは仕方がない。
父が悪いわけではないとわかっている菜々子は、泣きそうな声でそう言った。
「……桜子さんに冷たくしたのは、わたしも反省しています。でも、今さら『ごめんなさい』なんて、恥ずかしくて言えないし……」
「菜々子。桜子さんは、たしかにあなたよりも幼いですが、わたしたち
「そ、そうかしら……」
菜々子が不安げに顔をうつむかせると、仙造は菜々子に一通の手紙を手渡した。
「この手紙は……招待状? 『菜々子さん。学校の寮にてお待ちしておりますので、午後三時に
「行ってみたら、わかるでしょう。そして、勇気を出して、桜子さんと素直な気持ちで話しなさい」
仙造は、菜々子の頭を優しくなでながら、そう言うのであった。
学校に行くので、菜々子は
「いったい、何の用なのかしら? も……もしかして、さんざんわたしに意地悪されたことを
無駄に想像力が豊かすぎる菜々子は、イスに縄でしばられて、大嫌いな梅干しを桜子たちに次々と口の中にほうりこまれる自分を想像し、ぶるるっと身震いした。
「や、やめて~! わたし、すっぱいのは苦手なのぉ~!」
「フハハハ! お腹を空かせて来いと言ったやろ? 誕生日プレゼントや! た~っぷりと梅干しを食べさてやる~!」
「うぎゃーーーっ! すっぱーーーい‼ すっぱすぎて、すっぱい
そんな妄想をして顔が真っ青な菜々子は、重い足取りで
「どんな仕返しをされるのかわからないけれど、ここまで来てしまったら、もう覚悟を決めるしかないわ。こうなったら…………土下座して許してもらおう!」
根性がない菜々子は「うん、そうしよう!」と言ってうなずき、学生寮へと向かった。
学生寮の前では、桜子が、菜々子が来るのを待っていて、菜々子がおどおどしながらやって来ると、「菜々子さん、お待ちしていました!」と元気よく笑いかけた。
「さ、桜子さん。梅干しだけはご
「さあ、こっちです! いっしょに来てください!」
「え? え? ……ええ⁉」
菜々子は桜子に手を引っぱられ、学生寮の中に入った。
「桜子さん! 菜々子さん! 誕生日、おめでとう!」
手をつなぎ合った二人が寮の
「こ、これはどういうことなの⁉」
ビックリ仰天した菜々子は、頭の整理ができず、そうさけぶのだった。
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