ダンシング・オン・サディズム
「見たか、犬!」
ヘッドセットのインターカムからキョンの生々しい声が響いてきた。
エージェント・スミスは答えなかった。
キョンの声には、いつものと違う変な興奮が加わっていた。
「おい、犬、聞こえているのか、返事をしろ、声もないか!」
スミスは、第67特殊師団<デス・ブリンガー>の所属だったのだ、今まで、陰惨な戦場を駆け巡ってきたといっても、過言ではない。そんな戦場ばっかりだったというほうが正確だ。
隊員の中には、嗜虐性を持った連中も少なからずいた。そんな連中は概ね二パターンに別れる。その要素を内包しているという意味では、おなじだが、最初から、楽しんでやっているものと、戦場の残虐性から、どんどんかいかそていくものと、の二パターンに。
しかし、残虐性は戦場では、手段であって、目的では決してない。早急に情報を得なければ、行けない時、相手の苦痛や恐怖に訴えないといきえないときがある、しかし、あくまでも、手段でしかない。
残虐行為が目的に変わることは、決してない。
スミスも、最初に一人殺したときは、永遠にその出来事が自分の心についてまわるのかと、怯えた。
しかし、古参兵のいうとおり、二人殺せば、1/2に3人殺せば、1/3に罪悪感と落ち込み様は減っていった。そして、その殺人に対する不感に恐怖し、今度は、怯えた。
が、ここで、戦場は、もう一つ、冷徹な現実を教えてくれる。
過酷な戦場では、そんな罪悪感、恐怖にかまけていることを許されないのだ。
現実の危険が迫り、否応がなく、体を動かし、決断し、行動することが戦場の戦の神によって求められる。
言うまでもなく、嗜虐性を発揮するものにもそれは全くおなじように要求される。
嗜虐性を持って、それをコントロール出来ず、開花させたものは、多かれ少なかれ時間の問題で死んでいったか、負傷し、脱落していった。
そんな暇は、真の兵士には、要求されていないし、そんなことにかまけているのは、真の兵士ではないのだ。
スミスは、キョンをもまた、見抜いていた。
"こいつもまた、ヒーザンズの連中と同じ、仕方なく戦場で生まれ、戦場で栽培された雑草にすぎない、しかも、少ない栄養でよく成長した、ほうだ。
才能だけでここまで、生き残ってきた偉大なるアマチュアだ。
所詮、大多数の税金によって、十分な予算と時間をかけ訓練されたスミスのようなプロの兵士には、かなわない。
スミスは、なにも、言わず、<インビンシブル・ネルソン>の上部ハッチとコントロール系が下の自身のコックピットでコントロール出来ることを一番にチェックしていた。
そして、残虐行為をヤラせるだけやらせて冷静さを奪ってから、まず、コントロール系をオフにして、ハッチもロックしてやった。
気付いた、キョンは、狂ったように罵り暴れだしたが、所詮女の力では無理だ。
スミスは、静かに、機内通話のインターカムもオフにして置いた。
彼には、いかねばならない場所があった。
01・レリジオス・フェイス 美作為朝 @qww
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