下校
学校に到着すると同時に帰りたくなった。文化祭なんてものには関心がない。それよか家で寝ている方がすっとマシだ。
ホームルームで担任教師が何か言っているが聞き流す。それが終わるとクラスメートの連中が何か言ってくるが、どうとでも取れるような適当に返事をする。「お前は彼女持ちだからなぁ」と言われたが何の話だったのだろう。
僕は彼女の姿を探したが見つからなかった。トイレかもしれないが、そこまで探しに行くことは許されていない。僕は帰ることに決めた。
文化祭をさぼろうと決めたのは僕だけではない。校門の前には既にガラの悪そうな生徒数人が集まっていた。だが生徒に輪をかけてガラの悪そうな体育教師が、校門前に立ちふさがり、生徒たちの帰宅を妨害していた。教師の妨害に屈し、校舎への戻る生徒たちは教師の悪口を言っていた。
「あのクソブタウジ虫野郎め」
なんて口の悪さだ。本当の事でも言って悪いことがある。
さて目下の課題は、どうやってこの関所を突破するかだ。腕力では体育教師に勝てない。さぼりたいんで帰りますでは、言い訳として正当性がない。賄賂は先立つものがない。よし、正面突破ができないなら奇策を使おう。
「ピギャー!ブぺぺぺぺウニャゴ!ヤポン!ウアポン!ギャポン!ギェー!!」
僕は奇声を上げながら校門を駆け抜けた、体育教師は唖然としたまま僕を見送る。頭がおかしい人のフリをすれば、まともな人間は相手にしない。僕はその隙を見事について見せたのだ。
人間としての尊厳を失ったかもしれない。だがそんなものが何だというんだ。たった一度の人生なんだから、生きたいように生きればいいじゃないか。他人の意見に左右なんてされるな。言い訳は以上だ。
僕は体育教師が追ってこないだろうと思えるところまで、走り続けた。すると前方400メートル先に彼女の姿が見えた。彼女も関所を突破し、帰路につけたらしい。さすがだ。
彼女に追いついて声をかけると、何だお前か、みたいな冷めた反応をもらう。しばらく無言のまま、僕らは歩き続けた。
「そういえば」
珍しく彼女が僕に話しかけてきた。こんなことは今まであったかな。いや、あったけど覚えてないだけか。
そういえば? 僕はそのまんま聞き返す。なんだか気に障る言い方になったかなと後悔したが、彼女は意に介さないようだった。
「私、今日誕生日なんだ」
どうやら彼女に関する知識が1つ増えたようだ。
じゃあケーキ屋でケーキを買って、お祝いしようと僕が言うと、彼女は即座に拒否し、そこらへんのスーパーで安いロールケーキを買いたいと主張しだした。
なぜロールケーキ? しかも安物? 僕が困惑気味に質問をすると、彼女は不機嫌そうに答えた。
「好きだから。悪い?」
「悪くないじゃないかな、かなり変わっているけど。それに安いロールケーキなら僕でも買えるし。店中のロールケーキを買い占めようぜ。」
僕がそう言うと、彼女は満足そうに笑った。
翌日、2人で文化祭をさぼったことを担任教師に咎められたけど、そんなの大したことじゃない。説教を食らっている間、僕は彼女の方をチラチラと見ていたが、彼女は全く表情を変えずに、教師を凝視し続けていた。無言で恐怖心を与える。見事な態度だ。
これ以降、僕らが何度学校をさぼっても担任は何も言わなくなった。諦めたのか、彼女に恐れをなしたのか、僕には分からないが、結果的には良い方向に行った。
僕らのその後? うまく行ってるんじゃないかな。いや、彼女がどう思ってるかは分かんないんだけどね。
聞くのも面倒くさいし。
文化祭をさぼろう 飛騨群青 @Uzumaki_Panda
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