文化祭をさぼろう
飛騨群青
登校
曇り空だった。この辺は秋になるといつも、こんな感じだ。雨も降らないし、太陽も顔を出さない。うんざりした気分になる。
ここは田舎にある底辺高校への通学路だ。そこを歩く頭の悪そうな生徒たちの中に、僕と彼女の2人がいる。僕たちは他に相手がいないので、彼氏彼女役をやっていたが、お互いのことは正直言って良く知らない。それほど長く付き合っているわけでもないのだ。
僕の名前は...どうでもいいだろう。彼女の名前についても省略させてもらおう。周囲の人間は僕らを変わり者だという。確かにその通りだ。ついでにお似合いだとも言う。こちらの方は真偽不明だ。
彼女は長い髪の毛を茶色に染めているが、いい加減な染め方をしているので、色がまだらだった。そんな汚い髪色をしている上、視力が悪いのに眼鏡をかけないので、いつも目つきが悪く、教師の前だろうと平気で煙草を吸う。なので立派な非行少女として扱われていた。
好き勝手やっていても、退学にならないのは彼女が市長の娘だからだ。なお市長は暴力団も経営し、街の表と裏を支配している勤勉な人だ。だから彼女に関わろうとする人は少ない。実にうらやましい。
彼女に比べると、僕の方は大した人間じゃない。特徴と呼べるものはない。ただ父がイカサマ宗教団体の支部長なので、信者の方々には顔は売れている。そのせいで信者の方に道で会えば挨拶を受けることもある。僕も形ばかりの丁重な挨拶を返す。まったくもって忌々しい。
僕らの馴れ初めについて話そう。僕らは高校で初めて出会ったが、お互いの親は昔からのビジネスパートナーだった。だから彼女の存在自体は出会う前から、父に聞かされていた気がする。多分、彼女の方もそうだろう。僕らが付き合うことになったのはそんな理由だ。そんなものが理由になるのかと思うだろうが、僕らは自発的に政略結婚をしようとしているだけだ。
親が用意してくれたレールを進むのは楽だし、自分で進路を選べと言われても、他に行きたいところがあるわけじゃない。なら楽して儲かる方を選ぶ。そんな感じだ。親の関係がこじれたら、僕らの関係もこじれるかもしれないが、そんな先のことはどうでもいいだろう。
今日、問題なのは今日だ。明日になれば明日が問題だ。僕らは学校へ行かなくてはならない。あの退屈な虚無の回廊で苦しまなくてはならない。実にくそったれだ。僕らは毎日あそこで意味の分からない話を聞いて過ごす。サイン、コサイン、タンジェント、これはなんだ。こんなのを学んで世界が良くなるのか?アフリカの難民が救われるのか。もう一度言うが実にくそったれだ。
それでも今日はまだマシかもしれない。今日は文化祭だ。授業はない。僕らが書いたヘタクソな絵や、習字が展示され、恥をさらす露出趣味の祭典日だ。合唱部や、軽音部の出し物あるらしいが、僕は変態じゃないので、そんなものに興味はない。低レベルかつ退屈な授業がないのがありがたいのだ。
この文化祭をどのように過ごすのか、彼女とは相談していない。理由はめんどくさいからだ。彼女の方から何か言えば、まあ何か考えるが、彼女は特に何も言わない。そういえば最後に会話したのはいつだろうか。
まあ、そんな事どうでもいいや。
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