第11話 1人じゃねーぜ、オッサン
まだ夜は明けてない。初日ですでに飽き始めてる俺。
何度も同じルーチンを繰り返して居る内に、後ろが騒がしくなっていたことに気がついた。
「ん?……」ボッ
後ろを振り返る途中で蒸発させられたが、また回復して確認。
回復した身体で後ろを確認したら、(何だこりゃ)、神官達が離れた場所で大騒ぎしていた。
あいつら、地龍神のブレスから、ギリギリの場所でこっちを見ている。
「龍玉を使っ」ボッ「消すのだ、すぐに巫女を」
「何をして居る、目を」ボッ「……ええい、このガキがああ」
「ふぁ……」ボッ……
何か大声で叫んでいるが、途中で俺の身体は、ブレスで蒸発されるので全部が聞き取れない。
だが、何回か、回復すると何をやっているのか、ようやく見えた。
(ん? あれ? 何であいつここに居るの?)
ウルバの巫女のミイヒャが、神官達に捕まっていた。
(えー、後ろ見ずに走れって言ったじゃねーかよ、あいつ馬鹿なのか?)
この間も、地龍神のブレスで、蒸発と回復を繰り返している。
「何やってんだ、馬鹿なのかおま」ボッ
「……わは、馬鹿では無い、お前のような馬鹿では無い」ボッ「……のために自分の命を使えと言ったのは、ホーンズ、お前では無いか」ボッ
(何だよそれ、俺必死で格好いい俺を演じてたのに、肝心のこいつが逃げてないだなんて)
「何でそこに居るんだよ」ボッ
「お前が戦うのなら、妾もどうにかしようと必死じゃったのじゃ」ボッ
どうも、俺が燃え上がる度に、このガキは何かやろうとしていたらしいが、龍玉を取りに戻ってきた神官達に捕まったらしい。
(あほ)
俺があきれた顔で首を振ったら、ミイヒャは怒ったのか、顔を真っ赤にしている。
(やっぱり、見えてるんだよな?)
目を閉じたままのはずの少女は、どう言った知覚で俺を見てるのか分からないが、事態はややこしくなった。
(これは、どうにもならねえな)
そう思った時、ミイヒャが突然動いた。
ガブッ
自分を捕まえていた神官の腕に、思いっきり噛みつき、腕を振り払って、走り出した。
最後の悪あがきなのか、この広場になった場所を回ろうと、俺から向かって左に回転を始める。
当然後ろから神官達も走り出す。
(これだっ!)
俺は思いついた。慌てて、後ろを振り向き、地龍神ウルバへとむき直す、そのタイミングでまた俺は蒸発させられたが、復活してすぐ、ブレスの高熱でガラス化していた岩の破片を手にすくい取り、思いっきりウルバへと投げつけた。
「こっちだ、馬鹿」
軽い挑発も一つ加えて、俺も振り返りながら横っ飛びに走った。
地龍神ウルバは、さっきまでのブレスより、もう一つ大きいブレスをはき出してくる。
当然俺は、瞬時に蒸発。
復活した時、後方に見えたのは、まだ炎をあげている黒い残骸と、熱線の影響で転がっている神官。そして、まだ必死に走っているミイヒャの姿だった。
「おおおい、ミイヒャー、後ろは全部燃えちまったぞ」ボッ
「何じゃ、上手くいったのか、おぬし、なかなか分かっておるではないk」ボッ
ミイヒャが逃げる方向へ、ウルバのブレスを誘導して神官達を、俺へのブレスに巻き込めたのは、かなり運が良かった。
後は、ミイヒャに無事逃げて貰うだけだ。
「もう大丈夫だ、さっさと逃げろっつってんだろーが」ボッ
「……嫌じゃ」
「はあ?」ボッ
「さっき、神官の言っておった、りゅ」ボッ「……分かったのじゃ、おぬしを助けてやろう」ボッ
(ざっけんなよ、俺がどんだけ苦労してると思ってるんだ)ボッ(まだ、俺を助けようとか言ってやがる)
神官達が帰ってこなかったら、街の住人が次に来て、またミイヒャが捕まるのは、すぐに分かる。
このまま、ほっておく訳にもいかないのに、本人が逃げないと言っているのでは、どうにもならない。
「ふわーっはははははは、おぬし、妾に感謝し」ボッ
「えー? 何ー、途中で燃えたから聞こえねーよ」ボッ
「もう良い、妾が頑張るから、見ておれ」ボッ
(おい、こいつ何かやる気なのか?)
俺が、疑問を考えようとしたとき、森の上から光りが走っているのに気がつく。
東の空から金色に光る太陽神が登り始め、夜女神の青い衣を剥がしだしている。。
(夜明けだ。一晩中これを繰り返してきたのか)
大事な事をやっていたのに、何故だか、世界の雄大さの方に気持ちが向かっていた。
ぼーっとしていたら、また蒸発させられた。
すぐに回復した時、ミイヒャは、俺から距離を取るようにぐるりと、走って地龍神ウルバの後ろへと走って行っていた。
ミイヒャが、ギリギリ姿の見える位置で立ち止まった。
「これより、汝、地龍神ウルバに申し渡す」ボッ
ミイヒャの両目が開いていた、銀色の髪の毛が朝日に照らされ、金色に神々しくたなびく。
そして、その左目は、ぽっかりと空いた空洞、対して、右の瞳は、金色に光りを発している。
金色の光が、ミイヒャの言霊にのって、大きく瞬く。
「……ウルバ最大最高の火力をもって、汝の敵を撃て」
「え?」
(下手したら、俺は絶対回復でも復活しないかもしれないようなのを撃たせる気か?)
俺の心配を余所に、地龍神ウルバは、地面に這いつくばるような姿勢になって、何やらよく分からない光を全身に貯めて、口元へと集め出している。
「やばっ」
世界が白く染まる。
俺のつぶやきは、途中までで終わった。
……
(……はっ、復活してる。俺、死んでないぞ)
地龍神ウルバの最大ブレスでも、俺は復活した。
(ありがとう糞女神シェリシュ)
俺は感謝をしたのだが、事態は全然終わってなかった。
正面の地龍神ウルバは、凄く弱っているように見えるが、また全身に光を溜め込んでいる。
(ぎゃあ、また撃たれるのか?)
その通りだった。
世界がまた白く染まった。
二度目の、最大攻撃。
……
結果から言えば、その最大攻撃でも、俺は復活をした。
辺りを確かめるように、ぐるっと回ってみる。
一回転をすると、結構近いところまで、ミイヒャが走ってきて、ニターッと笑っていた。
「どうじゃ、妾の知略は、えっへん」
「エッヘンじゃねえよ、失敗してたら、コレどうするつもりだったんだ」
俺が指さしたのは、干からびた姿で形を崩している地龍神ウルバの姿だった。
地龍神ウルバは、朝日を浴びて、昨日の夜見た禍々しい姿から、元の龍神の姿に戻って息絶えている。
俺が後ろを振り返ると、森が一直線に無くなり、遙か彼方に見える山も、丸く形を吹き飛ばしていた。
「さあ?」
両目を閉じたまま小首をかしげ、両手を肩まで上げて、変な格好で『さあ?』と言っている姿は、小生意気な少女だ。
「さあ、じゃねーよ、どこで覚えたんだそんな格好? ずっと引きこもりだった癖に」
「良いではないか、上手くいったのじゃ、全部よしじゃ」
その小生意気な少女は、両目で外が見えているように、スタスタと地面に倒れ伏した地龍神ウルバの元まで行き、ウルバの死に顔を撫でている。
「はあ、まあ助かったよ、お前、これからどうすんだ?」
「さての、もう母様はおらぬしのお……おお丁度良い、おぬし妾の面倒をみよ」
「……お前、結構図々しいな。本当はどっかの修道院にでも放り込んでやろうと思ってたんだが」
「うっ」
目の前の少女が、一歩後退して呻いた。
「妾は、おぬしを助けるために奮闘したのじゃぞ、この恩知らずが」
「ふん、でもな、俺は死ねないんだぜ、どうせどっかでお前と別れる事になるさ」
「そうなのか……」
地龍神ウルバの顔を撫でていたミイヒャは、ウルバの右目辺りで、手を止め、突然腕を差し込んだ。
ズリュ
何かを引きずり出すと、地龍神ウルバの身体がボロボロと崩れだした。
形を徐々に無くしていく龍神を背に、こちらへ振り返ったミイヒャが、何かを握っている。
その手に握られていたのは、金色に光る小さな珠だった。
「おい、何をやってるんだ」
「ん? 地龍神様に残った最後の龍玉を取り出しておるのじゃ、これをの」
ミイヒャは、自分の左目を開けると、黒色の空洞がそこから覗いている。
驚く俺を無視して、左目に金色に光る珠を空洞へと押し込むと、また左目を閉じた。
「まあ、こんなもんじゃ」
「はあ、びっくりさせるなよ」
「ふふふ……そうじゃ、良いことを思いついた」
「何をだよ?」
「おぬしを殺してやろう」
「はあ?」
「おぬしを死ねるようにしてやる、やり方は分からんが、決めた。妾は、おぬしに死を返してやる、それが妾の恩返しじゃ」
「はあああああああ????????」
こうして2人は、共に旅立つ事になった。
「種毒の壺は大丈夫そうだな」
夜に地龍神ウルバに投げつけた種毒の壺は、壊れてなかったようだ。
泥を払って、神官の燃え残りからはぎ取った布に包む。
(ボロボロの布だが、全裸よりかはマシだな)
「よし行くぞ、閉じた目は大丈夫か?」
「心配するな、おぬしら目開きよりも、妾の塞目の方がよっぽど多くの物が見えておるわ」
盲目の少女と、おっさんの旅。
俺の呪いを解くために、2人の旅が始まった。
終わり
最弱ステータスのオッサン冒険者なのに、その男、最強 アリス&テレス @aliceandtelos
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