第10話 戦え、オッサン
★
「あ……これ使え、手探りでどうにかできるんだろ?」
「えっ」
俺は、手に握っていた小刀をミイヒャに手渡し、代わりに腰に付けたポーチに手を伸ばした。
(この程度の毒が効く相手とは、全然思わないが、俺のヘイトの加護を発動させるぐらいはできるだろ)
ニヤッ。
口元が吊り上がる。
2人でのやりとりの間にも、地龍神の身体は、洞窟の中からせり出し、半分暗闇になった夜の広場へと出てきた。
頭を上げた高さは、ツチムクの木よりも高く、顔の大きさは、俺の身体より十分大きい。
(暗闇に紛れてしまってるが、でかいな。形を持った恐怖が、真正面からグイグイ俺にのし掛かってきやがる)
「…ガエdガファ……」
(? 何だ、地龍神ウルバが何か喋っている?)
「…ファダ…アダレ‥モットホウサク……キンコウミャクノアリカ…クレダfガダオ…ヨメガホシイ…カネヲヨコセ……dファエアエファ」
聞き耳を立てると、地龍神ウルバは、人の言葉を喋っていた。
内容は、人間がいつも言ってるような欲望を口に出している。
(ああ、なるほどな、こいつも数百年、龍玉を奪われて神官に飼われている内に、人間の欲望を浴び続けてすっかりバカになっちまったのか……)
こちらを見下ろす瞳の色は、狂気の色だった。
俺は、ミイヒャに、囁きかけた。
「小刀はくれてやる、縄はもうすぐ切れるから自分でやれ。縄を切ったら、そこの道から大きな街道に出るて右に曲がれ、後はまっすぐ一直線に走れば、途中に村が有るから、食いもん恵んで貰え、そのまま街道を真っ直ぐ行って山超えりゃ、別の国だ」
「ホーンズ、おぬし何を言っておる」
「ミイヒャ、お前その閉じた目で色んな物見えるんだろ、じゃあ俺の加護が分かるなら意味も分かるはずだ、神殺しも出来るほどの加護だぜ、心配すんな、さっさと縄を切ったらこっちを振り返らず走るんだぞ、いいな」
「おい、ホーンズ」
俺は、洞窟の中から出てくる地龍神ウルバへと挑むため、ポーチの中から毒を出して歩き出す。
後ろでは、縄を切ることに成功したのか、ミイヒャが動いている音がする。
どうやら、縄は切れたみたいだ。
(よし、あとは、走って行け、振り返るなよ)
俺は、毒を握りしめる。
「う、うううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
毒を持ったまま、地龍神ウルバの元へと走り込んだ。
「あったれえええええええええええええええええ」
叫びながら、右手に握りしめていた毒を投げつける
ありったけの力を込めた投擲は、まっすぐ地龍神の顔へと伸び、中身をぶちまけた。
★
「Gogogoogoooooooooooooooooooooooooooooooooooo」
地龍神ウルバが吠えた。
全盛期には、最強クラスの回復系プリーストだった俺でも、もしここに立っていたら、この咆哮だけで倒れて動けなくなってただろう。
凄まじい圧力だった。だが、水の女神シェリシュの加護は、瞬時に俺を回復させる。
最弱ステータスしかなかった今の俺には、加護がある。この凄まじい咆哮にも耐え続ける事が出来た。
毒を投げつけて、痛い思いをさせることに成功したようだが、どうもまだ俺の事を認識してくれていない。
ヘイトの加護が、地龍神ウルバと繋がった感触が得られてなかった。
(どうするかな?)
もう一度毒を投げつけようと、ポーチの中に手を入れたが、中身はもう無い。
(しょうがねえな)
何か投げつけられる物……
(投げつけられるような物は、この種毒の壺しか残ってない。ならこいつを投げるしかねえだろ)
未だ吠え続ける、地龍神へと、もう一度全力で投擲をすると、「カーン」と乾いた金属音を立てて跳ね返り、種毒の壺は暗闇のどっかに飛んでいった。
「こっちだ、てめえの相手は、俺だあああああああああ」
叫んだ。と、同時に、俺の中から、月の女神セラムの加護が発動するのが知覚される。
地龍神ウルバは、俺への
暗闇に浮かぶ狂気の目が、鬼火のように輝き出す。
地龍神ウルバの口が開く。
大きく開いた口は、暗闇の中で、その奥からせり上がって来る炎で、辺りが明るくなっていく。
その炎に照らされた地龍神ウルバの姿は、龍の肉体と呼べないほど、あちこちが爛れて肉が落ちかけ、形を崩してる。
(完全に、荒ぶる祟り神になっちまってやがる、こんだけ馬鹿だと、途中で苦しくなって辞めてくれるまで時間かかりそうだな)
少女の顔が浮かぶ。
「元気でな」
……ゾゾゾボッ
次の瞬間、音が聞こえた気がした。
そして、空白の時間。
すぐに水の女神の絶対回復の加護によって、俺が再生される。
戸惑いを見せながらも、さらに
また口が大きく開き、その奥から炎がせり上がってくる。
「太陽と夜の追いかけっこだ。永遠の時を付き合ってやるぜ、かかってこいよ」
…ゾッ…ボッ
(まただ、また俺は蒸発させられたらしい)
すぐに絶対回復によって、甦った身体でウルバを睨む。
ウルバの口の中から、炎がせり上がり、俺へと吐き出される。
そして回復。
「てめえも上位神だ、ブレスが尽きる事はないだろ、だが、俺の階位レベル∞の力は、半端じゃねえ。いくらでも回復してやるぜ」
世界が炎に包まれる。
即回復。
大声で言ってはみたものの、これをまた何百年繰り返せばいいことやら、気が遠くなる作業だ。
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