第5話
こうして僕の回想に決着がついたはずだった。
しかしこの出来事は僕の心の中に深く刻み込まれ、僕を狂気に陥れようとしていた。
人間の肉はそんなにも美味いのか?
戦前戦後の食糧難の時代だ。
ほとんどの国民は満足のいく食事さえとっていなかったはずである。
そんな人間の肉さえ美味しいのだ。
飽食の時代の今、人間の肉がどれほどうまいか想像に値する。
僕は一度人間の肉を食べてみたいとずっと思っていた。
しかし僕の体はそれを拒否し、人間の肉どころか、牛などの家畜さえ食することができなくなっている。
これは天罰なのか。
それとも僕を諫める神の力か。
ある日、僕は路上に投げ捨てられた人間の死体を目撃する。
車が突っ込み、人がひかれたのだ。
血が溢れ、横たわる被害者を前に僕は、その肉を食いたいと思う。
と、何してる、救急車を呼べと誰かが声を掛けた。
僕は我に返る。
しかしあの時のことが忘れられない。
人間を食いたいと思う気持ちが僕の中にあり、それが祖父から受け継がれたものだとしたら、僕はきっといつか人を殺すかもしれない。
僕は祖父が国の命令に従っただけと思いながらも、狂牛病になるほど肉を食っていたことに目をつむれなかった。
僕は悩んだ末に人を殺す前に自分で自分に制裁を加えた。
僕の死を憐れむ人よ。
僕は両親を失ったことで死んだのではない。
しかしそう思ってくれることに感謝する。
僕の死は自殺で片付けられた。
「おいしいハンブルグ」 みーたんと忍者タナカーズ @naokiss
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