僕の相談


「それで、奥様と、よくお話をされたんですか?」


「いいえ…あまり。もとより妻は、自己主張が中途半端と言うか。どこまで本気なんだろうって、思うことがよくありました」



妻の運ばれた病院の、心療内科。よく考えるまでもない。必然的に此処へ来るよう、追い込まれたようなものだ。



「どなたか、周囲に相談できる方はいますか?」


「えぇ、結婚した友人はいますし、もしかしたら、相談に乗ってくれるかもしれません。ただ、どう切り出したらいいか、分からなくて」



結婚して一年も経たないうちに、妻に死なれそうになったと、友人にそのまま尋ねるのか。


下手をすると、それまでの友人関係まで、壊れそうな気がした。まるで加害者の心理だと、皮肉を言いたくもなる。



そして追い打ちのように今朝、妻が、僕にこぼしたのだ。



「昨日、集会があったでしょ。そしたらご近所さんに、色々言われちゃった。キミちゃんが悪い訳じゃないのにね」


「え?」



夜に救急車を呼んだことが、あらぬ憶測を呼んだらしい。妻の腕の包帯も目立つ。


彼女に言われるまで、気が回らなかったことだが、たしかに、ゴミ出しに行った先の挨拶で、苦笑いを返されることが多くなっていた。


でもそんなことまで、僕に、何ができると言うのだろう。



せめて会社にいる間はと、頭を切り替えようとする。そうでなければ、妻の治療も、生活も、将来も、何もかもが狂っていく。




「君らしくもないミスだね」


「すみません」



一つ、重要なことがおかしくなると、それを修正するために余計な気を遣って、それがまた、いつもは簡単なことまで、難しくした。


抱えきれない仕事を抱えたら、頼る人間は自分で探す。会社内なら出来ることだ。でも、私生活に関することは?



 僕の様子がおかしいと、同僚が上司に相談でもしたのだろう。それとなくだが上司に、社内に設置された相談室で、医師のカウンセリングを受けることを勧められた。


 

 何をどうすればいいのか、方法が見つからない。


それでも僕は、周囲の心配を裏切らないよう、いつかの病院へ、足を向けたのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る