して下さい♡
紀之介
何で「え!?」なんですか?
「今年の誕生日は…」
いつもの喫茶店の いつもの席
目の前に置かれた、花火付きスペシャルかき氷から目を逸らさず、葉月さんは呟きました。
「─ 花束を、プレゼントして下さい♡」
線香花火の閃光の様な、細かい花状の火の玉に見入っていた真一くんが、我に返ります。
「え!?」
「何で『え!?』なんですか?」
唇を尖らせた葉月さんに、真一君は口を引き結びました。
「花なんか…買った事ない」
「世の中には<お花屋さん>って場所が あってですねぇ…」
「それぐらいは、知ってる。」
真一君の視線が、向かいのテーブルの真上の照明まで移動します。
「じゃあ、宅配サービスの花を頼んで…」
「シンちゃんが、私に手渡ししてくれないと、駄目です!」
救いを求める目で、真一君は葉月さんを凝視しました。
「…花屋で花を買うのが、恥ずかしいんだけど。。。」
「そこは、頑張って下さい♡」
----------
「花束は…」
かき氷にトッピングされたフルーツを、葉月さんがスプーンで掬います。
「─ デートの最初に、渡して欲しいです♡」
半分のぐらいまで減った宇治金時から、真一君は顔を上げました。
「…は?」
口にフルーツが到着する寸前で、葉月さんのスプーンが止まります。
「その『は?』は、なんですか?」
テーブルにスプーンを置く真一君。
「…葉月ねーちゃん」
「何でしょうか? 真一さん」
「最初に花束を渡すのは、構わないけど…」
テーブルの葉月さん側に、軽く身を乗り出します。
「そうすると…デートの間中、ずっと花束抱えて歩く事になるけど 大丈夫?」
「あ…」
真一君は、固まった葉月さんに気が付かないフリをして、自分のスプーンを手に取りました。
「ひとりで花屋に行っても、よく判らいから…」
「…」
「葉月ねーちゃん。デート終わりに、一緒に行って…選んでくれるかな?」
「し、仕方ないですね。。。」
----------
「ところで…」
真一君の声に、マンゴー色の氷の山に集中していた葉月さんが反応します。
「何ですか?」
「花瓶」
「…はい?」
「─ 当然…あるんだよね?」
「あ、有る筈です。家中、探せば…」
目を逸した葉月さんを、真一君は大げさに睨みました。
「花のプレゼントをねだって、それを飾る花瓶…無いんだ?」
俯く葉月さん。
怒ったフリをしようと、真一君は表情を引き締めます。
言葉が口から発せられる寸前、葉月さんは顔を上げました。
「今から、花瓶を買いに行きしょう!」
「…へ?!」
「気合い入れて、立派なのを買いますね。」
二の句が継げない真一君に、葉月さんが微笑みます。
「だから…それに負けない様な、素敵なお花を プレゼントしてくれないと駄目ですよ? シンちゃん♡」
して下さい♡ 紀之介 @otnknsk
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