とうちゃく。


 ついた場所は公園、彼女はこの公園にたどり着きたくて離れた道路を歩いていたのだ。実際ここについた彼女は嬉しそうに微笑んでいた。その時の彼女は最初の時と印象と大きく変わって、子供っぽくどこか懐かしさを感じていた。


 ――あれ、懐かしい?

 自分の感覚に疑問を持つ、自分の記憶では晶とあったのは今日が初めてで二人でこんな場所にいるのもこの姿を見るのも勿論初めてだ。なのに、この胸に残る懐かしさはなんだろう。思い返そうとした途端、その考えを邪魔するかのように三時の時報が大きく鳴り響く、聴きなれた音だが今は何故か邪魔されたことに関するいらだちのほうが大きかった。だが初対面の相手がいる手前それを表には出したくなくて、他人の空似なのだろうと考えることで一度そのいらだちを収めようとする。こっちにきてと言いたげに手招きする晶の方に寄っていけば、一緒にブランコに乗りたかったようで隣のブランコに腰を下ろして揺らす。


「な、棗……は、ここにきて遊んだことがあるの?」

「うーん、遊んだことがあるようなないような? 中学生くらいの時はゲームしてばっかだったからなぁ、記憶にないや」


 晶の問いに少しだけ考えて答えを出す、ちらりと見れば何故か悲しそうな顔をしていた。どうしたの?と問いかける間もなく、彼女はブランコから飛び降りた、砂の音と少しの土煙が彼女の足元でふわりと踊る。その瞬間がなぜかとてもゆっくりに見えたし、着地した時の顔はさっきの悲しそうな顔が見間違えなんじゃないか、と思いたくなるくらいに元気で晴れやかな笑みを見せていた。確かにどこか悲しそうだったはずなのに、疑問点はその行動を起点に頭からゆっくりと薄れて消えていく。

 二時間近く公園で遊んだ、時間にあわせて太陽が少しずつ沈んでいく。もうそろそろ家に帰らないといけないし、彼女も帰る家に送ってあげなければいけないのではと謎の彼氏精神が湧き上がっていた。まだ陽がある以上夜道ではないが女の子一人で帰らせてしまうのはどうなのか? そう思って彼女に聞いてみればどうやら近くのコンビニまででいいらしい。車でここまでやってきたらしく、迎えは親に頼むのだとか。近くのコンビニに歩いて行きながら、ぼんやりと祭りのポスターを視界にいれた。


「今度お祭りがあるんだね」

「おう、ってもまぁ花火見て大食い大会やって……それくらいかな、回る相手もいねーし」

「……棗がいいなら、この日私行くよ?」


 何と言う(良い意味で)衝撃発言。まるで晶が俺の彼女のように感じるのはきっと気のせいだ、そう俺の気のせい。高まる鼓動を意識して必死に抑えようとするけれど、彼女の発言が与えたものは言葉で表そうとしても出来ないくらいにとてつもなかった。しばらくの間俺は返事を返せず無言になり、晶が心配そうに俺を見つめてくる。なんとか返さなきゃ、足りない頭を多分この十八年間の人生の中でフル回転させて口から出てきた言葉はこれだった。


「俺の方からもお願いします」


 何を言っているんだ俺。

 訳のわからない返事を返してしまった自分を全力で恨んだ。その返事を聞いてから、今度は晶が無言になる。そりゃあよくわからない返事が出てきたもんな、無言にもなるよな――と思っていたら。


「……じゃあ、決まり、で」


 決まった。

 決まってしまった。

 あんな返事でも晶はちゃんと俺の気持ちを組んでくれたのだ。嬉しい気持ちが心の奥底から溢れてくる。どうやら顔に出ていたみたいで、晶は俺の顔を見ながらくすくすと笑っていた。結局笑いは止まらないままコンビニで別れた。



 そんな感じで、晶との初めての出会いの日が終わった。

 

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