俺のひかり

sorairo

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麻梨絵まりえ、待って!」

俺が呼び止めても、麻梨絵は振り向かずに雨の中部屋を飛び出していった。急いで階段を降りて麻梨絵を追いかけたが、麻梨絵を乗せたタクシーは水しぶきを上げて遠ざかっていった。

麻梨絵がいなくなった部屋に一人で戻ると、そこには麻梨絵が作ってくれたグラタンとケーキが寂しく置いてあった。

「そうか、今日は俺の誕生日だったんだ……」

最近は仕事が忙しくて自分の誕生日すら忘れてしまっていた。

時計の針はもう12時を回っていた。

「あした、麻梨絵と話し合おう」

俺は麻梨絵にLINEをして眠りについた。


***


 朝になり会社に行く準備をしながらLINEを見た。麻梨絵のLINEには既読すらついていなかった。

 昼休みになってもLINEの既読はついていなかった。俺と麻梨絵が出会ったきかっけとなったカフェに行ったが、麻梨絵は来なかった。

 抱えていたプロジェクトが終わり、仕事がひと段落ついて定時の時間に帰った。しかし、もう部屋には誰もいなかった。部屋を見渡すと、麻梨絵だけでなく麻梨絵の荷物もなかった。きっと、俺が仕事でいない間に荷物を取りに来たのだろう。このままもう麻梨絵は帰ってこないのだろうか……。

「今すぐにも会って麻梨絵と話がしたい」

LINEを開いてもまだ既読はついていない。既読はもうつかないのかもしれない。そう思った俺は麻梨絵に電話を掛けた。でも、麻梨絵は電話にすら出なかった。


***


「麻梨絵、出なくてよかったの?」

「うん……。出てもなんて話せばいいか分からないし」

「このままずっと帰らないつもり?」

「しばらくは帰らないつもり。でも、友里ゆりの家にずっといるわけにはいかないから、明日には出ていくよ」

「私の家出て行ったら麻梨絵どこに行くの?」

「ホテルとかに泊まるから大丈夫だよ」

「ずっとホテルに泊まってたらお金なくなっちゃうよ! 仲直りするまで私の家にいていいから、ちゃんと仲直りしなよ」

「いいよ。仲直りできるのいつになるかわからないし……」

「麻梨絵は仲直りしたくないの?」

「仲直りはしたいけど、私から勝手に出て行っちゃったから……」

「じゃあ、圭介けいすけさんが迎えに来てくれるの待つの? 電話無視してるのに」

「そういうわけじゃないけど」

「ならちゃんと圭介さんと話さないと! 明日、ちゃんと話してみなよ」

「うん……」

私は友達でもある会社の同僚の友里に言われて、明日圭介の部屋に戻ることにした。でも、結局なんて謝っていいのか、圭介が許してくれるのかが不安だった。


***


 1日たっても連絡がつかなかったことに不安になった俺は大学時代の友達のさとしに会社終わりに相談に乗ってもらった。

「それは麻梨絵さん怒るわ」

「そうだよね」

「だって、お前の誕生日のために料理作ってあげたのに、連絡も無しに遅く帰ってきたんだろ? しかも、それが何回もあったんじゃあ我慢の限界になるよ」

「でも、それからLINEも既読つかないし、電話にすら出てくれないんだよ。もうどうしたらいいか分からないよ」

「麻梨絵さんが行きそうなところとか分からないのかよ?」

「実家は遠いから帰らないだろうし、同僚の友里さんのところかな……」

「友里さんって人に連絡してみろよ」

「俺、友里さんの連絡先知らねーよ」

「じゃあ、麻梨絵さんの仕事場で待っとけば? そしたら会って話ができるだろ」

「もうそうするしかないよね……」

「戻ってきてほしいんだろ? 麻梨絵さんに」

「うん」

俺は明日麻梨絵の会社に行って帰りを待つことにした。麻梨絵が話をしてくれるかは分からないけど、せめて、麻梨絵に謝りたかった。


***


 聡に相談に乗ってもらってからアパートに着いたのは21時頃だった。

「……圭介」

不意に俺の名前が呼ばれた。その声はどこか懐かしい声だった。

「麻梨絵……」

その声は俺がずっと探していた麻梨絵の声だった。

「ごめんね。私、ずっと意地張ってた。LINEも無視しちゃったし」

「謝るのは俺のほうだよ。ずっと麻梨絵を一人にしてた。あの日だって、俺のために料理作ってくれて寝ないで待ってくれてたのに……。それなのに逆ギレなんてして、本当にごめん」

「ううん。いいよ」

麻梨絵は俺の大好きな笑顔を向けてくれていた。

「圭介? 泣いてる?」

「泣いてなんか、ないよ」

俺はすぐに涙を拭いた。そのとき、麻梨絵が俺を抱きしめた。冷めきっていた俺の心は一つの光に包まれていった。

「麻梨絵、おかえり」

「ただいま」

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俺のひかり sorairo @sorairo987

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