第2話 みやこさんは狛犬である。
prrr…
朝五時ぴったりにアラームがなる。
設定したのはもちろん僕だ。
昨日は疲れていて、宿題などのもろもろは、
朝早く起きて済ませてしまおうと考えて早朝にアラームをセットしたわけである。
prrr…
その時は自分でも名案だと思っていたのだが、よくよく考えると、いつもそうやって失敗してたんだった。やっぱり、後回しはよくないな。
prrr…
突然だが、アラームが繰り返しなる機能の名称をご存知だろうか。
その名もスヌーズ機能。というかそもそもスヌーズって何?英語なの?
「えーい!」
まだ微睡みかけていた僕の脳は、
突然の出来事に対して全く処理が追いつかない。
だが、それは目を開ければ一目瞭然。
なんのことは無い。布団を取られただけである。
しかし、僕は寝起きがいいほうではない。
寝起きで布団を取られてしまっては尚更だ。
「何するんすか、みやこさん」
「おはよう。何って、孝ちゃんが朝五時に起こして言ったでしょー?」
意識が覚醒するにつれて思い出してきた。
アラームで起きれなかった時のために保険として、昨日みやこさんに起こすのを頼んでたんだった。
みやこさんは仕事の都合上留守にしがちなうちの親に変わって、昔から家事全般をやってくれている。
「ご飯できてるから、顔洗ってらっしゃーい」
そう言いながら手をひらひら降って出ていく彼女の姿を見送ったあと、僕は目を擦りながら洗面所へと向かった。
「ご馳走様でした」
「はい。お粗末さまでした。美味しかった?」
食後に味の感想を聞くのはみやこさんの癖である。
曰く、自分の味覚に自信が無いとのこと。
普段なら美味しかったと伝えて終わるのだが、
朝のことを根に持っている僕は(もちろん頼んだのは僕なので、みやこさんは悪くないのだが)、
少しからかってみることにした。
「すっごく美味しかったよ!こんなに美味しいご飯が食べられるなんて、みやこさんがお嫁さんだったら幸せなんだろうなー!」
「あらー…。」
何かまずいことを言ったのだろうか。
口に手を当てて僕の後ろを指差すみやこさん。
恐る恐る振り返ると、
そこにいたのは幽霊少女、飯塚あさひ。
「げ。」
「ふぅーん、みやこさんにはお嫁さんだったらーなんて言ってたくせに私にはそんな態度とるんだ」
(完全に拗ねてるなこいつ…)
何とか弁明しようと口を開きかけたその時、
「あら、あさひちゃんわざわざこんな朝早くにどうしたの?」
「どうしたのって、私はいつもこの時間に来て、孝太郎が起きるまで待ってるのよ」
「幽霊とはいえ、不法侵入は褒められたことじゃないわねー」
「うるさいわね、狛犬」
「犬って言うなー!!」
喧嘩が始まってしまった。
この2人は馬が合わないのか顔を合わせるたびに言い合いをしている。
あの大人しいみやこさんがあさひと同レベルの言い争いをしていてるのを、微笑ましく思いながら、食器を下げる。
言い忘れていたがみやこさんはあさひが言うように狛犬である。
そう、神社とかにいるあれ。
馬が合わないのは狛犬としての性質も関係しているのかもしれない。
というか、この時間からいつもあさひが来ていたのは初耳だった。
あとで止めるように説得しよう。
朝倉くんの周りは不思議なことがいっぱい! 中野唯 @yuinaka
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