ものがたり

壊れたものがたりが見えたので拾いあげる

拾いあげた運動からつづけて

高く掲げていく

腕はもっとも高い位置に到達したが

ものがたりはまだ高く昇っていく

次第次第にちいさくなっていくのを見守る

やがて雲間に紛れていくものがたりの

砂糖が溶けるようにふっと消え入る瞬間

青空へとゆらぎが拡がっていく

かすかにゆらめく光の屈折はやがて

馴化していく

もう目はものがたりを感知しなくなった

ものがたりの形成する

甘味は常態として舌のうえでゆらいでいるが

もうものがたりを感知しなくなった

ものがたりなどないと

忘れられた甘味のなかでいう

拾わなかったものにも強いて

甘味は甘味でなく無味だとふれこむ

壁の向こうで

隣人はきょうも頭痛に悩まされているらしい

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