前世編―玉藻国叙事詩―

前世編登場人物

【京姫】

帝とともに玉藻の国を治める姫巫女。宮廷祭祀を執り行い、その霊力を以って玉藻の国の民を守護する。玉藻の国を創ったあまつ神の生まれ変わりとして、人々からは崇め奉られている。


京姫みやこひめ(当代)

京野舞の前世の姿。天真爛漫な少女。七歳で京姫として即位する。

持って生まれた霊力のあまりの高さゆえ七年の間、外界には一歩も出ない物忌の生活を送ってきた。樺色の髪と翡翠色の瞳を持った可憐な姫君。桜の相を持つ。


藤枝ふじがえ御方おんかた

先代京姫。苧環神社にて怪物に襲われた舞を助けた女性であるが、既に故人である。



【四神】

京姫に仕える四人の乙女。それぞれ京の東西南北を守護し、季節を司る。『暁星記ぎょうせいき』によれば、元は玉藻の国を荒らす悪しき神であったが初代天皇・白菊帝と京姫によって征伐され、京姫に従うようになったとされる。


青龍せいりゅう

青木翼の前世の姿。京の東を守護し、水を操り春を司る。

活発で真面目な少女。京姫の乳母めのとの娘であり、姫とは乳姉妹ちきょうだいの間柄にあたる。歳より大人びて見えるが、男女関係についてはなぜだか潔癖である。


玄武げんぶ

黒田奈々の前世の姿。京の北を守護し、草木を操り冬を司る。

亡き柊の大納言の六の君。両親に先立たれ、十七にして未亡人となる。不幸な身の上のせいか、物静かで誰とも打ち解けようとしない。腹違いの兄を慕う。


白虎びゃっこ

白崎ルカの前世の姿。京の西を守護し、風と氷を操り秋を司る。

落ち着いた物腰の男装の麗人。女の身でありながらまつりごとにも参加しており、帝や上皇にも重んじられている。朱雀に深い愛情を向けている。


朱雀すざく

赤星玲子の前世の姿。京の南を守護し、炎を操り夏を司る。

高貴なる内親王。松枝帝と市松皇后の間に生まれた女三の宮で、今上帝の異母姉にあたる。口数少ないみやびな人であるがその瞳に時おり感情のゆらめきを宿す。


青龍(先代)

先代の青龍。京姫の即位の儀に立ち会った。故・石蕗つわぶき中納言の北の方。たおやかで心優しい老婦人。すでに俗世を離れられていたが、京姫即位からしばらくして世を去った。


玄武の宮(先代)

先代の玄武。京姫の即位の儀に立ち会った。故・澤瀉おもだか帝の女四の宮で、松枝上皇の御妹すなわち朱雀にとっての叔母。長く患っていた病により没した。



【帝と皇族】

今上帝

京姫とともに即位された帝。松枝帝と牡丹の女御の間に生まれた三の宮。異母兄たちの相次ぐ死により十二歳で即位した。聡明で穏やかな方で、お若いながらに多くの臣下や民に慕われている。


松枝上皇まつがえじょうこう

今上帝、朱雀らの父君。故・澤瀉帝の一の宮。三人の后との間に七人の皇子女を儲け、そのうち市松皇后の産んだ一の宮に譲位して帝の位を退いた。月に仕える身ながらも今なお健在であり、三の宮の治世を見守っている。


市松皇后いちまつこうごう

故人。松枝帝の皇后で藤枝ふじがえ帝、桐生きりゅう帝、朱雀らの生母。

左大臣・九条門松の同母妹でもある。実家である九条家とその並びなき美貌のために皇后の位を手にしたが、病によってこの世を去った。


藤枝帝ふじがえてい

故人。松枝帝と市松皇后の間に生まれた一の宮。父の後を継いで帝の位を継ぐも、若くして病没した。


桐生帝きりゅうてい

故人。松枝帝と市松皇后の間に生まれた二の宮。病没した兄の後を継ぎ即位するが流行り病により没する。桐花とうかの女御との間に生まれた皇子が一人おり、今上帝の即位後、東宮となった。


牡丹大后ぼたんのおおきさき(牡丹の女御にょうご

松枝帝の后。今上帝、女二の宮の実母。

三条家の生まれで、政治権力をめぐって争う九条家を目の敵にしている。皇后の位は市松皇后に奪われたものの、三の宮の即位により大后となった。


女二の宮

松枝帝の第二皇女。今上帝の同母姉でもある。父のはからいにより柏木右大臣の元に降嫁するも無名の家に生まれた夫を軽蔑しており、夫婦仲は冷めきっている。


東宮(桐蔭宮とういんのみや)

桐生帝の皇子。次の帝となる身分ではあるが九条家の血を引くことから政敵の三条家ににらまれており、その将来はいまだに見通しがきかない。明るく屈託のない性格で、気取りがなく下々の者によく好かれている。誰かに似ているかもしれない……


六条紫蘭ろくじょうしらん

結城司の前世の姿。松枝帝の四の君ではあるが、亡き母・木蓮もくれんの更衣の身分が低かったために臣下に降ろされ六条の姓を賜る。残酷なまでの冷徹さと青い炎のような野心を抱きながら、脆さと悲しみを捨てきれないでいる青年。この世のものならざるがごとき美貌を誇る。


【臣下・女房など】

九条門松くじょうかどまつ

左大臣。現世でテディベアに魂を乗り移らせた当の本人。古めかしく生真面目な翁。身寄りのない京姫の後見人でもある。


柏木武かしわぎたける

右大臣。若さに似合わぬほど冷静沈着な、雄々しき青年。今上帝の同母姉である女二の宮と結婚しており、帝にとっては義兄にあたる。


芦辺芳野あしべのよしの

京姫の乳母であり、青龍の実母。姫君には日々振り回されっぱなしで口やかましく叱りながらも、実の娘に劣らず愛している。


雪乃ゆきの

玄武付きの女房。まだ若いが落ち着きのある女性で、身寄りのない玄武に共感し、事細かに面倒をみる。玄武が心を開く数少ない存在。


栃野とちの

東宮に仕える老いた女房。東宮の母上である桐花の女御が幼少のころから母子二代に渡って世話をしている。


枳殻からたちの姉妹

三条家の血を引く姉妹。母を早く失い、厳格だが愛情深い父親によって世と遠ざけられて育った。大君はたおやかな筝の名手。中の君は華やかな美貌の持ち主。互いを深く慕いあっている。その美しさと血筋ゆえに三条家の野望に巻き込まれていき……


【動物】

夕景ゆうかげ

紫蘭の愛馬。葦毛の牝馬で、他の馬や知らない人を寄せ付けない気難しい一面もあるが、優れた脚力を持ち、賢く主人想い。


【月修院】

京よりはるか北、北山のふもとにある寺院。死後の世界を司る天満月媛命を祀り、宗主(通称・月修院さま)を筆頭に男僧と巫女とが俗世を離れて生活している。


月修院げっしゅういんさま

第十七代月修院宗主。月修院の男僧と巫女を統べる。幼いころから長きにわたって天満月媛命にお仕えし続ける敬虔な僧侶であり、優れた人格者でもあることから、帝や上皇も一目置く存在である。


月当げっとう

月修院の巫女の長であり、巫女たちの監督や指導を務める役職。当代の月当はまだ若く妖しいまでに美しい女性であるが、実はその名は……


藤尾ふじお

月修院の巫女。身体的にはすでに成人した女性であるが、とある出来事のために幼子のような振舞いしかできなくなってしまった。身寄りもないために月修院の巫女たちが世話をしている。なぜか京姫を「八重藤やえふじ」と呼んで興味を示す。


【玉藻国神話】

あまつ乙女

創世神。先の世が終わったとき、他の神々が遠く旅立つなかでただ一人この世界に留まられたあまつ神。一人残された乙女の涙が川となり、その川底に玉藻の国が生まれたとされる。玉藻の国の人々に深く信仰されている。


白菊帝しらぎくてい天有明星命あめのありあけぼしのみこと

天つ乙女の御子。父親はなく、天つ乙女がただ、おのれの涙の川に押し流された星々をみて「なんと美しいのだろう」と言われたことにより身ごもった子だとされる。その後、天つ乙女により玉藻の国に降ろされ、四神を征伐し、国を統べる存在となった。天有明星命とは白菊帝として即位される前の天つ神としての名前である。


桜乙女さくらおとめ

玉藻の国の乙女。一本菊ひともとぎくの下に降ろされた白菊帝を見つけ、天つ乙女の命令でまだ赤子だった帝を養育した。その後、帝の成人とともにその妻となり、夫の四神征伐を助けるが、旅の途中で朱雀に食い殺され、命を落としたとされる。


稲城乙女いなきおとめ

桜乙女の妹。白菊帝即位後、皇后となった。悪しき神を崇める黄櫨はぜの一族が反乱を起こした際は、四神を従えて戦いを鎮めた。以後、稲城乙女は醜い禽獣の姿しか持たぬ四神たちに乙女の姿を許し、自らは京姫を名乗って玉藻の国の京を守護する姫巫女となったとされる。


天満月媛命あめのみちつきひめのみこと

月の女神。玉藻の国の人々には死後の世界を司る女神として信仰される。天つ乙女の歔欷によって日の女神とともに涙の川から浮かび上がるも、天つ乙女がその輝きを眩しがったために我が身を恥じて身を隠してしまった。以降、日は昼の世界を、月は夜の世界を分掌して支配することとなったとされる。


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