二話目
「笑って」
前の休日と同じように喫茶店の隅のボックス席で、ジークリットはコーヒーを楽しんでいた。いつもとは違い、この日は本を読んではいなかった。クロエが来るだろう、そしてこの間の彼女が作ったゲームをもう一度するだろう、と思ったのだ。
予想通りしばらくしてクロエが喫茶店にやってきた。彼女はマスターと挨拶を交わした後、ジークリットのいる隅のボックス席に向かう。
「待ってたの?」
クロエは日傘をテーブルにかけ、腰に手を置き、嬉しそうに言った。
「うん、待ってたの。クロエだって私に会いに来たじゃない。」
「そうよ。折角の休日じゃない。私の休みとジークの休みが被るのって結構貴重なのよ。」
小説家のクロエは仕事の休みとは、執筆がひと段落したということだろう。確か新作の執筆中だとこの前の休日言っていたことをジークリットは覚えていた。
「で、今日もするんでしょ?」
ジークリットはコーヒーを二人分注文してからそう言った。
「勿論。あなたもやる気満々じゃない。もうコーヒー頼んじゃって、ねぇ?」
「だめ?」
クロエは横に首をふり否定する。
「嬉しいわよ。私もゲームをするために来たんだから。まあ、それだけじゃなくておいしいコーヒーもね。」
コーヒーカップを傾けるジェスチャーをしながらクロエはそう答えた。
「面白いゲームでおいしいコーヒーを飲めば、ますますおいしいってこと?」
「そう……そうねぇ、まるでチョコレートとウイスキーじゃない?」
お酒はあまり知らないジークリットだったが、言いたいことは分かる。しかし全肯定はしかねるので、曖昧な笑みを返した。
「この間の老夫婦惨殺事件、覚えてる? 今日はそれを題材にしようかと思ってるんだけど。」
「覚えてる。あんなのなかなか忘れられるはずがないからねぇ。……西の方では惨殺事件だとか、連続殺人だとかよく聞くんだけどね。まさか東でこんな事件が起こるとは思っていなかったよ。少し前なら、ない訳ではなかったんだどね。」
ここ十年は殺人事件どころか、他の犯罪事件も大したことが起こってこなかったのだ。その中で起こった惨殺事件。話題にならないはずがなかったし、仕事柄人の死には慣れているジークリットの記憶にもよく残っていた。
「そうよねぇ。私もよぉく覚えてるわ。でも、一応確認はしなきゃあね。私は出題者だもの。」
頬杖をつきながら、楽しそうにクロエは言う。そして、何かを求めるようにジークリットを見た。
「まずはコーヒーが来てから、でしょう?」
その言葉にクロエはいっそう笑みを深めた。彼女が求めた通りの言葉だったようだ。
「そう言えば、『時間制限』を設けてたけど、これって出題者と回答者共通のものだよね?」
「まあそうね。そもそも、延ばそうと思えば延ばせるしあってないようなものだけどね。ただ、コーヒーが冷めないうちにはおわらせましょうねってだけだしねぇ。この間はだいぶ温くなっちゃったけど。」
品質の良いコーヒー豆で上手く淹れられたコーヒーなら、冷めてしまっても美味しく飲むことができる。でも、せっかく温かく淹れたのなら、温かいうちに飲んでしまいたい。
「ああ……それと、形だけでも時間制限はあった方がいいでしょう? それに、『コーヒー一杯分』ってなんだか素敵じゃない。」
暫くして、マスターが二人分のコーヒーカップとミルクピッチャーを持ってきた。
「それじゃあ、始めましょうか。出題者は私、回答者はあなた。少し残酷な表現にご注意ください。」
クロエがコーヒーを一口飲んで、そう言った。
「まずは登場人物の話をしましょう。まあ、ジークなら全員の本名知っているだろうけど、仮の呼び名の方が都合が良いでしょ?」
クロエはクスクスと笑いながら、コーヒーにミルクを入れた。
「登場人物は前回と同じく四人。エドガー、ファニー‥……あとはグレイス、ハロルド、としましょう。エドガーとファニーは兄妹で、エドガーが十四歳、ファニーが十歳。グレイスとハロルドは夫婦で、老夫婦と言っても良い程度の年齢ね。兄妹と老夫婦には血縁関係はないけれど、親交があったみたいよ。」
ミルクを入れたカップに更に砂糖を加える。ジークリットもクロエからミルクピッチャーを受け取り、自身のコーヒーに加える。
「四月、強い雨が降っている日だったわ。」
その日の天気を思い出しているのだろうか。クロエは店の奥から見えもしない空を窓の向こうに見ていた。
「どうやって死んでいたかは……後で良いかしら? 最初に言ってしまうのは少し盛り上がりに欠ける気がするの。」
「別に構わないよ。盛り上がりは大切だしね。」
「では、時系列に沿って出来事を追っていきましょう。」
ジークリットはクロエの言葉を静かに聞きながらコーヒーを口に含んだ。少しの酸味を感じる。
「その日は休日、エドガーとファニーの学校は休みだったわ。彼らの家族が住むアパートの住人の証言では、兄妹はお昼過ぎに家を出ているみたいね。正確な時間は分からないけど、だいたい午後一時とのことよ。その後、兄妹が確認されたのは午後三時前。老夫婦の隣人家族が兄妹と挨拶を交わしたそうよ。その時の兄妹は普通……まあ笑って挨拶をしてくれたってことね。普段も顔を合わせれば挨拶する程度の関係と隣人家族は言っているわ。因みに、隣人家族は家族全員で出かける直前だったみたいね。」
クロエはそこまで言い終わるとコーヒーを飲む。
「えっと、次はねぇ……」
「ねえ、何か言い忘れていることがない? 後で、付け加えるつもりなら申し訳ないけど。」
ジークリットはクロエが次の出来事へ話を移そうとしているのに気付き、口を挟む。彼女が口にした情報だけだと、少しばかり足りないのだ。
「あぁ、えっと、何かしら。ごめんなさい。言われればたぶん分かるんだけど……」
クロエはかなり困った様子で笑みを崩した。彼女が表情を崩すのは珍しいことだった。真顔から笑顔への変容、あるいはその逆はよくあるのだが、笑顔を崩し切羽詰まった表情になるのは珍しいことだ。
「休日のたびに兄妹が老夫婦の家を訪れていたこと。あとは、兄妹の両親が共働きで家にはほとんどいないこと、その休日もいつもと同じようにいなかったこと。こんなものかな。」
クロエは申し訳なさそうに眉を下げた。
「ダメね。私、出題者なのにね……」
「別にそこまで気にしなくて良いんじゃない? ゲームなんだし、楽しくやりましょう?」
その言葉にクロエは弱弱しく微笑んでみせた。
「じゃあ、気を取り直して続きを。兄妹が目撃されたのは隣人家族の証言の午後三時前が最後ね。次は、老夫婦の目撃証言に切り替えましょう。」
いつも通りの表情に戻ったことに安心し、ジークリットは息をついた。そして、少し減ったコーヒーに砂糖を加えた。
「午前七時、ハロルドが自宅近くの畑で雑草を抜いているのを隣人家族が確認してるのが最初で最後ね。前に農家の老夫婦と言ったけど、老夫婦は農家だったと言った方が正しいわ。一年ほど前にグレイスが倒れてから廃業したとのことよ。とは言っても、全く畑に触っていなかったわけではなくて、体調が良いときはハロルドは畑に出ていたみたいね。その後は全く目撃証言はないわ。グレイスは普段から全くと言って良いほど家から出なかったみたいだし、兄妹以外だと息子夫婦くらいしか家を訪れていないようだったそうだし。」
「それに加えて、老夫婦が住んでいた地区は家の間隔が大きく、隣人家族の家が近いことの方がむしろ珍しいことだった。農業やってるところは大抵そう。」
ジークリットは足を組んで、コーヒーを片手にそう付け加える。
「そして、次は翌日の午後五時に兄妹が警察に出頭するまで飛ぶわね。兄妹はただ老婦人を殺したということ以外なにも言おうとしないそうよ。」
「さて、次は事件の結末を話しましょう。」
クロエは楽しそうにそう言った。この事件について知っているジークリットからすれば、結末について楽しそうに話すのはどうなのかと思ったが、クロエのこの趣味は前からである。知り合ったころから、惨殺事件やら拷問やらへの興味を持っていた。それについて彼女もあまり人前で話す気はないようだったが、最近は少し顔に出るようになっていた。
「兄妹が出頭してから警察が現場である老夫婦の自宅に着いた時、それはそれは酷い状態だったそうねぇ。老夫婦はダイニングのテーブルを挟んで向かい合うように椅子に縛り付けられていた。足と腹部とわき下と足ね。」
クロエは一箇所ずつ指で指して自分の体で示していく。
「そして、手のひらはテーブルに釘で打ち付けられていた。残念ながら、長さが足りなくてテーブルまで釘は届いていなかったけどね。腹部は包丁で滅多刺しにされた後、内臓を取り除かれて適当に糸で縫い合わされていた。で、取り出されていた内臓は畑に埋められていた。」
そこで一度言葉を区切り、ためを作る。
「一番、酷かったのは口ね。こうやって、無理やり笑顔をね。頬を無理やり糸で釣り上げて口角を上げて、口の端も糸で釣り上げて。本当、……酷いわねぇ。」
クロエは両人差し指で口角を上げてみせる。少し首を傾けて、楽しそうにそう言った。最後の言葉も、「素敵だ」とでも言いたかったのだろう。
「……こんなものかしらねぇ。後は、老夫婦の死への決定打となったのは……って、分かりきったことよねぇ。」
少し申しなさそうな笑みを浮かべ、クロエは目線を落とし、コーヒーを飲む。ジークリットは自身に彼女の目線が戻るのを待って口を開いた。
「じゃあ、次は私の番でいいかな?」
その言葉にクロエは頷く。
「まず、一つ話しておかなきゃいけないことがあるかな。兄妹の親の話のことね。」
ジークリットはテーブルに肘をつき、話し始めた。
「ああ、親がかなりのクズだったってやつでしょ?」
「そう、そのこと。そのせいで兄妹の処遇が決まるのはまだ時間がかかるらしいみたい。更生施設か精神病院かと言われてたけど、親のことがいろいろ分かってきて養護施設も候補にね。まあ、病院送りになるのでしょうけど。」
クロエは少し顔を歪めた。彼女は「親子」についての悪い話——特に今回のような酷い親の話——が嫌いだった。
「で、そのことについてね。まだ、親関係の話は捜査中でこれはただの噂話に過ぎないの。事実ではあるのでしょうけどね。……どうする?」
不確かな情報、まだ捜査中だと言われていること——ジークリットは知り合いのその事件の担当刑事から聞いたのでほぼ間違いないものだが——をこのゲームに使うのかどうか。それをジークリットは聞きたかった。
ただでさえ、解決された事件を抉るように凌辱する趣味の悪いゲームだ。そこに、まるでゴシップ誌のように噂話をあたかも本当のことのように扱うのは、あまり気が向かなかったのだ。
クロエもジークリットと同じ考えのようだった。
「さすがにねぇ……」
「できる限りその話は聞かなかったこととして私は話すつもり。でも、全く影響を受けないように話を作るのは難しいかな。……すこし頼っちゃうかも。」
当然だとでも言うようにクロエはにっこりと笑った。
「そういえば、キャ……グレイスは倒れた後、少しボケちゃってたみたいだけど……それは使って良いよね?」
「それは構わないと思うけど。」
グレイスは倒れた後少しの間寝たきりになり、それからしばらくしてボケていってしまっていた、という話があった。老婦人が外に出なくなったのもそこに原因があったのではないかとジークリットは考えていた。
「そうね。最初は、なぜ兄妹が老夫婦の家を度々訪れていたのかについてかな。」
ジークリットは目線を外し店内に走らせる。そして、軽くぼんやりとあたりを見た後にコーヒーを飲む。
「兄妹の両親は共働きで家にはあまりいなかった。何かをきっかけに知り合った信頼できる老婦人に両親が兄妹を預けていたとか? いや、彼らの年齢を考えると少し無理がある考えかな。……なら、預けられていたのではなく、単純に兄妹が老夫婦の元に通うのが彼らにとって楽しかったのでしょう。何かしらのプラスになっていた。それについては後で考えましょうか。」
コーヒーに砂糖を加える。
「そのプラスだった場所にグレイスの変化が加わるとどうなる? 兄妹にとってはあくまでもグレイスは親交あった老婦人。ハロルドとは違う。それに彼らはまだ子どもでしょ? 今までは優しかったおばあちゃんの変化はまるで全く別の人への変貌だったのかもしれない。……人生経験という言葉はあまり好きではないんだけど、その言葉が適切かな。人生経験を積めば、また違った見方ができたのでしょけどねぇ。受け入れがたいものだったでしょうね。特に優しかった人の変貌はね。まあ、グレイスが優しかった、良い人だったかどうかはここでは置いておくとしましょう。」
ジークリットは目を細め、深く腰をかけ直す。
「そうねぇ……例えばいつも笑顔をうかべた優しいおばあちゃんが怒りっぽい人になっていたら? 理不尽を撒き散らす人になってしまっていたら? 悲しいでしょうねぇ。兄妹以上に老人は悲しいでしょうねぇ。寂しいでしょうねぇ。……老人は『死にたい』『もうこんな妻を見たくない』と思ってしまうかもしれないねぇ。それを兄妹は叶え……これじゃあダメね。もう少し強いものが必要。だって、グレイスが倒れてからも兄妹は老夫婦を訪ねていたのでしょう?」
「じゃあ、ハロルドに頼まれていたなんてどう? 兄妹がいる間だけはグレイスは昔のグレイスに戻っていたのかもしれない……とか?」
クロエはジークリットが考え込んでしまう前に口を挟んだ。
「ああ、それはいいかも。だとしたら、そうだとしたら……グレイスに『兄妹』という魔法がきかなくなってしまっていたら? それは『豹変』と言っても差し支えはないでしょう? だとしても、殺す理由にはなりにくいでしょうね。」
ジークリットは意味もなくコーヒーをスプーンで軽く回した。
「殺されそうになったから、殺した……」
コーヒーの香りの中でぽつりと小さく呟いた言葉は深く深く頭に刺さった。
「……グレイスは倒れてから少しずつ今までの優しいおばあちゃんから理不尽な人へと変わっていった。でも兄妹がいれば、その時だけはグレイスは昔のグレイスに戻ってくれる。だから、ハロルドは二人に家に来てほしかった。頼んだのでしょう。時々、グレイスに顔を見せてくれないかって。兄妹は優しい子どもたちだったのでしょうね。その願いを聞き入れたんだもの。」
ジークリットは落とした視線をそのままに話を続ける。
「でも、あるとき魔法はとけるの。兄妹にとってはそれは『豹変』だった。今までの優しいおばあちゃんじゃない。……そうね、童話でいう『悪い魔女』、避けられない……避けられなかった理不尽。」
クロエは黙って聞いていた。目線は合わない。
「悲しかったでしょうね。でも、それ以上ではない。なら、どうする? 家から立ち去るでしょうね。もう来るのはやめようかと考えるかもしれない。……兄妹はあいさつをして帰ろうとした。殺人なんて最もたる理不尽じゃない、ねえ? まあ、それが最もたる理不尽となるのは赤の他人の場合だろうけどね。ああ、でもこれはさすがに唐突すぎるかな……」
ジークリットは頭を切り替えるために深く息をはいた。
「唐突だからこその理不尽かな? ええ、そうね。いきなり不愉快そうな顔をする子どもが現れたんだもの。グレイスも不愉快だったでしょうね。その上、ハロルドにグレイスはどうしたんだとかその子どもたちが聞いてたら、もっと、ね。グレイスにはどう見えたのかしら? その時手元に刃物があったら……いえ、そうじゃない方が絵になるかな。」
ジークリットは自分の首を絞めるふりをする。
「こうやって、ね。首を絞めるの。飛びかかってね。もちろん抵抗したでしょう。ハロルドも止めたでしょう。でも、うまくいかなかったら? どうする? もし、抵抗した時にグレイスが気を失ったら? 例えば、手で振り払ったら、そのまま床に倒れて頭を打ったとか。パニックになっていた時にそんなことになればねぇ。……殺してしまったとか思うかもね。パニックになった人間なんて何するか分からないわよ? 一番怖いのは人間だとはよく言ったものだよね。」
目線を戻しながらそう言う。
「ハロルドは最愛の妻を殺してしまったわけだ。どうする? 自分も死んでしまおうと思ったかもねぇ。その惨状を兄妹は見たわけだ。どうする? 兄妹はハロルドのことを止めようとしたでしょうね。でも、できなかった。ハロルドも死んでしまった。」
ジークリットは少しコーヒーを飲む。だいぶぬるくなっている。
「あとは、何であんな方法で死体を偽ったか、かな? まあ、昔の仲の良い二人に見立てたんでしょうね。内臓を取り出したのは、生きている人間は死臭なんてしないでしょう? あとは動機……兄妹にはそこまでする理由はないでしょうし。彼ら兄妹にとってそこだけが安心して過ごせる場所だった……これはだめね。さっきの言葉に反する。」
もう一度コーヒーを口に運ぶ。
「……ただ、もう一度笑ってほしかった。それを叶えるためにしようとしたのかもね。死化粧っていうやつ? そうね。兄妹は優しかったからハロルドの望んだ『昔の二人』という死化粧を施したの。でも、途中でグレイスは目を覚ました。怖かったでしょうね。だから、刃物を突き刺したの。一回、二回、三回……何度も刺して、刺して。だって、人って案外柔らかいの。筋肉質な人なら別だけど、老夫婦よ? 筋肉なんてあると思う? 肌にハリがあった方が刺したという実感を持てるけど、老人よ? 手応えは薄いでしょうね。で、ハロルドもお揃いにしてあげるの。」
そこまで言い終わると、ジークリットは締めの言葉を探して店内を見回す。
「……結局、罪悪感に耐えられなくなって出頭したみたいだけどね。」
お手上げだとジェスチャーしてみせる。締めの言葉は特に思いつかなかった。
ジークリットは手を下ろし、コーヒーを飲み干す。クロエもぐいと飲み干した。
「ところで、さっきの親に関することを使うとしたらどうなってた?」
クロエは片手で空になったコーヒーカップを弄ぶ。
「……言いかけた通りに、彼らにとっての楽園を守るためってなっただけだね。なんか前と同じで芸がないし、噂話なんて使いたくはないけど……いくらゲームでもねぇ」
「友人同士でのゲームでとは言ってもねぇ。いえ、友人だからこそかしらね。私、……弟の前だと結構いろいろ適当なこと言っちゃうもの。」
「……弟? クロエ、弟なんていたっけ?」
ジークリットの記憶が正しければ、クロエには弟はいなかったはずである。
「あぁ……この話は後にしましょう? ね?」
クロエは困ったようにそう言った。これ以上聞かれたくはないらしい。
それぞれが支払いを終え、喫茶店を出る。今日は前よりも少し早い。お昼には少し早いくらいだ。
「ねぇ、これから少し本屋に付き合ってくれないかな?」
クロエは日傘を開きながらそう言った。
「何か買うの?」
「うーん、ちょっとね。少し欲しいものがあって。何か面白そうな特集をやってるみたいなのよ。えーと、雑誌の名前は忘れたんだけど見ればわかると思うの。」
ジークリットもクロエもあまり雑誌は買わない。ジークリットは仕事仲間から借りることが多いからだが、クロエはあまり雑誌が好きではないようだった。どうにも、興味がわかないらしい。
「『世界の未解決事件の記録』ってやつ。昔の事件についての記事らしいわ。」
「それはまぁクロエ向きの特集だこと。」
クスクスと笑いながらジークリットは言う。
「本当にねぇ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます