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「敏和坊ちゃん、ご友人が、」
そんなことを繰り返し、日が傾き始めた頃、寿一はリビングのソファでいびきをかいて寝始めてしまいました。 揺すり起こして「もう帰る?」と聞くと、「泊まる。」と言ってまた寝始めたので、緑さんと顔を見合わせ笑ってしまいました。 自分の住処に他人を泊めるのは、後にも先にも寿一だけでしたが、その代わりと言いますか、寿一は空き部屋の一つを自分の部屋にしてしまうくらいに泊まりに来たのです。 その年の夏休みも、半分はウチに泊まっていたと思います。
「やばいよ、ビビの家めちゃめちゃ居心地良い。 なんか、でっかいビビって感じ。」
「それどういう意味。」
「めっちゃ綺麗なのに、肝心なとこ手入れされてなくて。 すっげぇ広いのに、静まり返ってて。 そして、俺に見せたくない、ちっちゃな部屋がひとつある。」
「、」
寿一はたまに、本当にたまに、もの凄く頭が良いのではないかと思わせるような発言をしてきます。 しかし本人には、ドキリとさせてやろうとか、そんな意図はないので、自分で何事もなかったみたいに流すのでした。
胃袋がはちきれそうなくらい晩ご飯を食べて、寿一が勝手にした泡風呂に入って、その日は一番広い部屋で二人、キングサイズのベッドに寝転がりました。 私の曾爺ちゃんが使っていたもので、祖父も祖母と一緒にこの上で眠り、そして父を作ったのです。
「こんな大きいベッド、使ってないなんてもったいない。 ほら、俺足伸ばして寝ても全く支障無いの、久しぶり。」
寿一の家には、具体的な数字は聞いたことが無いのですが、たくさんの生き物が居るそうです。(人含む) だから寿一が寝ようとしたら必ず布団に先客が居るし、ご飯もお腹いっぱい食べようとしたら苦情が入るし、お風呂は早く入らないと温くて汚くてお湯の少ないのに当たってしまうし、つまりなんというか、こんな風にのんびり体を伸ばすことも、なにかを隠すことも出来ない。 そんなところだ、と言いました。 そう考えていったら、なんだかとても心細くなりました。 こんなにも大きな体をしている彼が、その体を懸命に丸めながら、すみっこへすみっこへと追いやられているような、そんな気持ちに。 隣で手足を伸ばして心地よさそうにする寿一の、ぼさぼさな髪の毛を撫でると、細い目をまん丸にして、不思議そうにこちらを見ました。
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