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「無理だよ、おれ、ハナさん知らんもん。」
「知らなくてもさ、そのままで普通にハナさんなの。」
「こんなゴツいハナさん嫌だぁ。 俺の中のハナさんは、めっちゃ綺麗で、長い黒髪のお嬢さんなんだよ。」
「麦藁帽子に白いワンピース着てひまわり畑に居そうな?」
「そう、それそれ! ビビはエスパーかー。」
「違うよ。 女の勘は鋭いって言うでしょう。」
後ろにぶら下がって揺らしていた体がピタリと止まって、ヘラヘラ笑う口のまま、細い目で私を見つめました。 探ろうとしたのでしょう。 でも、ぼんやりと考え込んでいる隙に無防備なわき腹を擽ると、「ちょ、ビビ! いぎゃー!」と叫びながら無様に後ろへ倒れていきました。(188cmの巨体が少し高いところから落ちたので、もの凄い音がホテル内に響いて、ちょっとした騒ぎになりました)
寿一は地に響くような低い声で大笑いをして、乱れた浴衣を直さず、大の字で床に寝そべりました。 その浴衣から覗くしっかりとした胸板や筋肉質な手足が、まさに「男の人の体」で、思わず目を反らしてしまいました。 顔が熱くなって、こんなタイミングで真っ赤になったら変に思われてしまう。 けれど、寿一のほうを見ることが出来ずに、かえって不自然な格好で固まってしまいました。
「ビビ?」
「うん。」
「うんってなにさ。」
この声は、笑っている。 目が無くなるくらい細くなって、喉の奥で、クククって。
「ビビ。」
「はい。」
「敬語になった。」
「イエス。」
「英語だ。 やっぱり頭いいな。」
「イエスくらい、誰でもわかるでしょう。」
「わかんないよ。」
窓の外から、誰かの笑い声が聞こえる。 火薬の匂いが微かに届いたから、花火をしているのだろうか。
「ビビ、俺、わかんないよ。」
線香花火がしたい。 あの静けさが、儚さが、美しくて好き。 好きだから。
「知るべきなのかが、わかんないよ。」
ゆっくりと、視界の端に寿一を写しました。 寿一は大の字で天井を見つめたまま、胸だけをゆっくり上下に動かして。
「俺バカだから、わかんない。」
違うよ。 本当は、貴方は私より、ずっと賢い。
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