2 どの往来で間違えたんだ

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 今より約二十四年前の、降り頻る雪すらどこか慌しい年末。 八木(やぎ)家の第一子は、出産予定日よりも一ヶ月早く母の腹から出てきてしまった、生まれながらの出来損ないでした。 何をそんなに慌てたのか、年越しをどうしても外で味わいたかったのか、未熟者が人騒がせに出てきたものですから、母は再び子供を作るのが難しい体になってしまいました。

 そして、慌てたせいか、ただ単に愚かだったせいか。 私は自分の体にいらないものをつけてしまったのです。 母の腹から出てきた時、あぁ間違えてしまった、と泣き叫んだのですが、時は既に遅く、この蛇足とした体で生きることを余儀なくされました。

 そう、私は生まれる前から既に愚か者だったのです。 そんな、生まれる前から愚かだった者が努力もせず、成長と共に蝶のような優れた姿になれるわけがないのです。

 自らで蛇足としたくせに、私はそれを一切受け入れず、蝶になれるのだと信じ、心に従って生きていました。 両親が買ってくれる車のおもちゃにはリボンを着けて、ロボットは世間話をし、積み木で作るのは勿論、車やロボットの素敵なお家。 誕生日に欲しいのはボールや変身ベルトではなく、テディベアや着せ替え人形。 髪を切られそうになるたび暴れて、何より幼稚園の青い制服が大嫌いでした。

 こんな感じなので、お察しの通り、私は幼稚園からずっとイジメの対象でした。 男女(おとこおんな)、オカマ等という罵倒を受けながら過ごした幼少期。 両親はそんな私のことを理解して、私が女らしくすることを否定せず受け入れてくれました。 それを理由にするのは卑怯かもしれませんが、私は心を殺し体に合わせて生きようなどという努力を一切せずにいたのです。 そんな愚かな私を神は見放したのでしょう。

 小学生の時、父方の祖母が亡くなりました。 着慣れない喪服。 知らない独特の匂い。 博物館で見た蝋人形のようになった祖母。 大好きな優しく美しい祖父の泣く姿。

「敏和、人はいつか死ぬんだよ。」

 私の手を握って、そう言った父。

「骨だけになるんだ。」

 そう言って、数ヵ月後骨だけになった父。

 その時にはきっと、もう既に父の脳にある血管にはデキモノができていたのでしょう。 祖母のことが落ち着いたのを見計らって、ぱったりと、あっさりと、それは覚悟や実感などする間もないほどあっという間に、息を引き取りました。 頭が痛い、と朝に言っていて、それが私の聞いた父の最期の言葉でした。 学校に電話が来て病院に行った時にはもう、父は器だけとなっていました。 ありがとうも、さようならも、ありきたりなお涙頂戴の最後も無く、父は還らぬ人となりました。

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