第3話

 「・・・はあああああ・・・・・・。」


 これで今日何度目のため息だろうか。いけないとは思いつつも、うまくいかない人生に恨みを零さずにはいられない。

 どこで間違えたんだろうか?俺は楽に生きたかっただけだ。適当に仕事をして適当に過ごせればよかった。無駄に技能を習得するよりも、授かったスキルを活用して生きられればいいなと、そう考えていただけだ。


 確かに、俺の願いは叶ったのだろう。俺はランク7という、人類最強の力を手に入れた。生活も楽々だ。ちょっとスキルを使用すれば、毎日遊んで暮らせるほどの金が手に入った。

 人から感謝もされた。誰だって、叱られるよりは褒められたほうが嬉しい。それで金も手に入ればいう事はない。


 ーーー俺の人生はバラ色なのだと、昔は思っていた。


 だが、認識が甘かった。俺だけじゃなく、この国の全員の認識は甘かったのだ。誰もこんな結果になるなんて思っていなかった。目先の奇蹟に目が眩んで、こんな結果を招くとは誰も考えなかったのだ。


 ーーー我が国クレセンドは、現在隣国シュヴァーンとの全面戦争に突入している。そして、俺もその戦場にいる。


 飛び交う魔法、シュヴァーンの新兵器『銃』。召喚された魔物が人を殺し、人が人を殺す。そんな戦場。


 楽に生きたい。

 そう願ったというのに、俺は何故こんな命の価値が軽い場所にいるのだろうか・・・。それは、俺がスキルの使い方を間違えたのも一因なのである・・・・・・。



★★★



 俺、イリカ・アーメルは、人類最強の一人、ランク7ーーー通称、『超越者』ーーーとなった。それが、今から約300年程昔の話である。


 俺の手に入れたスキルは『《ステータス・ルーラー》』という。つまり、ステータスの支配者というスキルであった。


 唐突だが、この世界にはステータス板というものが存在する。

 これは、この世界の人間なら誰でも使える力である。

 使い方は簡単。自身、または触れている無機物を対象として、「ステータス」と唱えればいいだけだ。それだけで、半透明の板が目の前に表示される。これは、基本的には自分しか見ることはできない。

 因みに、他の生物のステータスは、『《ステータス閲覧》』などのスキルが無いと見ることが出来ない。あくまで、自分または無機物しか出来ないのだ。

 無機物の場合は様々な表記となるんだが、人間を対象とした場合、こういう表記をされる。Aさんを例としてみると・・・



ーーーーーーーーーーーーーーーー


・名称:A

・種族:人族

・年齢:15

・性別:男


★ステータス

HP:50/50

MP:50/50

攻撃:50

防御:50

抵抗:50

速さ:50

運:50


★スキル

『?:ランク?』


★状態

正常


ーーーーーーーーーーーーーーーー


 と、このような感じになるだろう。勿論、数値は適当だ。


 さて、このステータス板だが、基本的には、現在の状況を知る為に使用される。自分の残りHPを確かめたり(0になると死ぬ)、状態異常になってないか確かめたり(病気や怪我も表示される)。無機物に使えば、その物質の攻撃力とか耐久力とかも知ることが可能だ。


 まあ、言ってしまえば、見つからない病気などない。殆どの人間は、朝起きた時にステータスを確認することを徹底しているしな。何か異常があれば、すぐ医者に行けばいい話だ。勿論、それで治るかどうかは別だが。


 ーーーさて、話を戻すが、このステータス板は現在の状態を表すものでしかない。確かに便利だが、それ以上の存在ではなかった。

 ・・・俺が、スキルを授かるまでは。


 俺のスキル『《ステータス・ルーラー》:ランク7』は、ステータスの表記を自由自在に変更することができる。自分だけではなく、他人や無機物まで、およそステータス板が存在する全てのものの。

 これをするとどうなるかというと・・・


 簡単に言ってしまえば、『現実が改変される』のである。


 つまり、攻撃を999にすれば、そいつは城壁すらも一撃で破壊することができ。

 防御を999にすれば、ドラゴンの攻撃すら傷一つなく防ぐことができ。

 抵抗を999にすれば、いかなる毒物や病気、寄生虫も一切の危害を加えることは不可能になる。


 それだけじゃない。


 性別を変更することも。

 年齢を変更することも。

 そして、種族さえも思うがままに変更することができる。


  この世界では、15歳から生活が劇的に変化する。

  それは、スキルを手に入れると同時に、『ランク』も手に入るからだ。


 ランクが高ければ高いほど、そのものはステータスにプラス補正をされる。そして、ランクが上のスキルは、下のランクからの干渉を、全てレジストしてしまう。つまり、例えば『即死』系のスキルを持っていようとも、ランクが1ならば、2以上のランクを持つ人間には効かないということだ。そして、ステータスでも圧倒されてしまう。


 こうして、この世界では格差が広がっていく。何をするにも、ランクが高い人間が優先されるのだ。当然だな。スキルの効果でも、ステータスでも負けているのだ。よほどの理由がない限り、劣っている者を使う必要などない。

 ランクが低い人間が集まり、スラムのようになっている国もあると聞く。

 だが、俺はこの格差を無くせると思った。


 俺のスキル『《ステータス・ルーラー》』は、何故かスキルとランクだけは変更出来なかったが、それ以外はなんでもできる。

 つまり、『ステータス数値の格差をなくせば』、ランクが低い人間でも仕事ができると考えたのだ。幸い、ランクが存在するのは人類種だけで、魔物などには存在しない。つまり、ランク1のスキルであろうと通用するのである。


 俺は、政府に掛け合った。その結果、あっけないほどに容易く受理された。

 まあ、国の最強戦力『超越者』に要請されて、断る事など普通はできないが、俺が政府の人間のステータスを改変し、長年悩まされてきた病気などを完治させたことも原因だと思う。


 そして、俺は全国民のステータス改変を始めた。


 ーーー作業自体は数分で終了する。体に触って、MPを消費して、数値を変更するだけだ。ネックとなるMPも、最大値を999にし、更に減ったら現在数値を999に戻せば全快する俺には何の意味もなかった。一日に数え切れない程の人間の、攻撃以外のステータスを999にする日々が続いた。


 攻撃を999にしなかったのは、安全のためだ。攻撃だけをそのままにした結果、この国で怪我や殺人といった事件はほぼ0となった。どんな武器を使おうと、防御999を超えることなどできないからだ。スキルでの殺傷は防げないが。


 ステータスの変更が終われば、この国で怪我をする人間はほぼいなくなった。魔物との戦闘でも、一方的な戦果をあげた。この国は、まだ1歳の子供ですら、ドラゴンと対峙しても殺されることは無くなった(例え丸呑みにされたとしても、消化されることはない)。


 そうやって数年して気がついた。


 医者がいなくなっていた。


 怪我もせず、病気もせずでは、商売が成り立たないのである。

 たまに、スキルによって重症を負う者がいても、俺がスキルによって★状態:正常に変更してしまえば、怪我をする前の肉体に戻ってしまうのだ。痛みもない。副作用もない。失った血液や、痛みで正気を失っていたとしても何の問題もなく完治してしまう。


 死んでいなければ、どんな状態でも助けられるのが『《ステータス・ルーラー》』なのだ。

 今では、治療系のスキルを持つ人間は、軍やギルドに数人いるだけとなっている。医者と呼べるほどではなく、俺が間に合うまでの応急処置係という感じだが。

 どうしても医者になりたいなら、他国に行くしかないのである。


 俺としては他人の職を奪うつもりはなかったのだが、痛みもなく数秒で終わるとなると、誰でもこちらに任せたくなるものだ。政府で独占などしようものなら民衆が怒るし、どうしようもなかった。


 更に困ったことが起きた。


 俺が年齢変更出来ることが、民衆に知れ渡ったのだ。


 どうやら、政府関係者が漏らしたらしいのだが、これにより、高齢者が殺到した。

 既にステータス変更は全国民ほぼ終了していて、俺も時間があった。ここまで広がっては断る事など出来ないだろうと判断し、この国の高齢者は、全員17歳の若さを取り戻した。これは、何故か全員が希望した年齢であった。


 更に困ったことに、容姿の変更ができることもバレた。


 じつは、ステータス版にはタブ機能というものがあり、そちらでは、現在の自分の姿をまるで鏡を見るかのように確認することが出来たのだ。

 そして、俺はその姿を変更することが可能であり、豚みたいな男性が絶世の美男子になることだって可能だった。整形などではないため、崩れる心配もなく、痛みを感じることもない。


 これがバレたことにより、また国民が殺到した。

 その結果、我が国の国民は大人から子供まで、全員が他国では絶対に見られないような美男美女ばかりになってしまったのである。


 ーーー今思えば、これが最大の過ちだったのだろう。


 気がつけば、我が国の人口は膨れ上がっていた。


 怪我や病気で死なず、寿命で死なず、そして10代の躰を取り戻した彼らは性欲が有り余っていた。避妊していても出来る時は出来る。それによって子供が産まれ、その子供達もステータス変更によって死ぬ事が無くなった。

 高ランクや高い技術を持った優秀な人間が長生きすることによって、我が国はどんどん発展していった。空前の好景気により余裕が出来た国民はまた子供を作り・・・と、ありえないループをしてしまったのである。


 それが、一度や二度なら問題なかった。


 だが、誰だって死にたくはない。歳をとるたびに俺の元にやってきて若返って帰る。そうやって300年程が経ち・・・この国の人口は、限界を迎えようとしていた。


 あまりに増えすぎたのだ。住む場所はどうとでもなる。我が国は、人口が増えすぎて建築技術が進化しまくった。上に、上に。下に、下にと伸ばす建築技術が発展したのだ。これらはビルディングと呼ばれ、他国にはない、我らだけの技術となった。


 だが、食料がどうにもならなかった。


 我が国の食料自給率は、他国と比べて遥かに低い。おそらく、2割か3割といったところだろう。スキルや技術を持っている人間は多いが、土地がないのである。それにより、我が国は隣国シュヴァーンから、毎年大量の食料を輸入していた。


 ・・・・・・そう。これが戦争の原因だった。

 今年、シュヴァーンが食料の輸出を完全に停止したのである。


 シュヴァーンがその暴挙を犯した理由。

 それは、我が国を手に入れるため・・・もっと言えば、連中の狙いは俺だった。


 俺がいれば、全国民のステータスをカンストさせることすら容易なのだ。新しい国王になり、大陸統一という目標を掲げたかの国にとって、俺の存在は喉から手が出るほど欲しいものとなった。


 普通に考えれば、俺たちの国に勝つことなど出来ない。何故なら、国力が違いすぎるからだ。人口が違う、国民一人ひとりのステータスも違う。

 だからこその兵糧攻めであった。怪我や病気にならずとも、餓死はするのだ。再三輸出再開を打診しても、聞く耳を持たなかったのである。


 これに焦った我が国は、シュヴァーンに宣戦布告した。


 この時、我が国はそこまでの危機感を持っていなかった。いくら輸出を止められたとはいえ、緊急用の備蓄を吐き出せば少しの間は持つ。元々我が国の戦力は圧倒的だ。何故なら、軍属の人間の攻撃は俺が900まで上げているからである。武器を装備しても自国民は傷つけられないが、他国の人間ならかすっただけでバラバラになるほどの攻撃力である。

 むしろ、この戦争によって農耕地帯を手に入れれば、食料問題を改善出来るとすら思っていた。


 ーーーだが、俺たちは甘かったのである。


 シュヴァーンは、最初から兵糧攻めを手段の一つとしか考えていなかった。


 絶対に勝てるという確信があればこそ、奴らは挑んできたのだ。


 その根拠は・・・・・・新たに生まれたランク7。『超越者』の存在。

 ・・・・・・そう。元々いたランク7と合わせて、彼らはランク7を2人手に入れたのである。


 それも、考えうる限り最悪の組み合わせ。


 『《軍神》:ランク7』マルス・イルカージ。


 そして新たな『超越者』、『《オーバーブースト》:ランク7』ネル・アークライト。


 この二人によって、我が国は限界まで追い詰められていたのである。


 




















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ステータス・ルーラーと眠り姫 @sabaibarugem

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