第2話

 『ステータス・ルーラー』。


 それが彼の二つ名であった。


 イリカ・アーメル。この国の医療をただ一人で担う男。

この大国『クレセンド』には、イリカ以外の医者は存在しない。―――勿論、民間療法のちょっとした塗り薬などを作成する人間はいるだろう。

 しかし、明確に『医者』と呼べる人間は、彼の他には存在しないのは事実であった。


 この世界の人間は、15歳の誕生日を迎えると同時に神からスキルを一つ授かる。


 スキルには様々な種類があり、同時に、同じ種類のスキルにも格・・・『ランク』が存在する。

 基本的に、ランクが高ければ高いほど全てにおいて性能が高い。ランクが下のスキルがランクが上のスキルに影響を及ぼすことは不可能だ。ランクが下のスキルは、どんなものでも完全にレジストしてしまう。

 だが、その効果は格別だ。


 例えランクが1だとしても、それが攻撃系のスキルならゴブリン程度なら倒せるだろう。最も、ゴブリンは最下級の魔物だし、それを倒すのにすら苦労はするだろうが。

 これが、最高ランクの7ならば桁が違う。一人で、軍隊と同等である。

 ランクが3以上なら、それがどんな能力でも一生食うのに困ることはないだろう。ランクが1違えば、性能も断然変化してくるのである。


 スキルとは、人がこの世界で生きていくのに必要な力である。それゆえに、授かったスキルから職業を選択するのが普通である。15の誕生日を迎え、始めて人は自分の将来を考えるのだ。この国に限らず、多くの国では職業選択の自由を保証している。


 農民の息子が戦争の英雄になることもあれば、英雄の娘が商人になることだってあるだろう。ある意味、誰にでも成り上がるためのチャンスがあるのと同時に、優秀な両親から優秀な子供が生まれるとは限らないため、権力基盤が長くは続かないという欠点もあった。


 イリカは、農民の息子であった。


 スキル『《魔術適性:土》・ランク2』を持つ父親アレンと、スキル『《魔術適性:水》・ランク1』を持つ母親マリ。どちらのスキルも名前通りの性能である。

 『《魔術適性:土》』は指定した範囲の大地を操作する魔術を使用できる能力であり、『《魔術適性:水》』は水の魔術を使用することが可能なスキルだ。


 どちらも種類としては大当たりのスキルである。もう少しランクが高ければ、魔道士として生活も可能だったろうし、それでなくとももっと広い範囲の畑を持ち、豪農として暮らすことができたかも知れない。


 しかし、『《魔術適性:土》・ランク2』程度では、せいぜい家数件分の範囲にしか効果がないし、『《魔術適性:水》・ランク1』では、ごく短い時間少量の水を出せるに過ぎない。どちらも、ランクが低すぎた。


 だが、相性のいいスキルであることに変わりはない。少なくとも飢えることだけはなかった。親子3人で慎ましく暮らせる程度には生活も安定していたのである。


★★★


 イリカは、常日頃から、努力などくだらないと考えていた。


 どうしてみんな、スキルをもらう前から勉強したりするのか。

 この国には学校があった。過去、どんなスキルが存在したのか、そのスキルを持った人間はどんな職になり、何をしたのかなど、子供がどんなスキルを授かっても悩まないように、との国の方針であった。


 だが、スキルと関係のない事を覚えても無駄になるだけではないか。それならば、スキルをもらってからそれを活かせる職を選んだほうが効率がいいし楽だ、と彼は本気で考えていた。

 両親の影響もあるだろう。彼の両親は、ランクは低くとも、自身に見合った職を見つけている。どんなスキルでも使い方次第でどうにでもなるのだから、今から考えるなんてバカバカしい。でもできれば、戦闘系のスキルでないほうがいいなと彼は考えていた。

 戦士系のスキルで軍に入るのは嫌だし、魔術師のように沢山の呪文を使いこなせるように勉強することも嫌いだった。


 ―――要するに、彼は面倒くさがりで根性もなかった。


 何とかなるさ、という軽い思考の元、軽い読み書きや計算の勉強だけをして、あとは遊びまわっていた。


 『辛いことや苦しいことからは逃げればいい。適当に生きてもどうにかなる。今から無駄になる可能性の高い努力なんて、馬鹿のすることさ。』


 彼の持論である。


 そして、結果的に。

 ―――そう、結果的にだが、この怠け者は成功してしまった。努力なんて無駄だという彼の持論が証明されてしまった。誰よりも怠けていた彼が、スキル『《ステータス・ルーラー》・ランク7』という最強クラスのスキルを手に入れてしまったことによって。

 その当時、彼のことを怠け者と馬鹿にしていた級友や周囲の大人たちは運命を呪ったという。その嘆きは酷く、中にはイリカに闇討を仕掛ける者も出たという。


 大国『クレセンド』の超重要人物でありながら、彼の人生についての歴史書などが極端に少ない理由は、彼の性格が原因なのかも知れない。


 



 












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