熱中症

10頭以上の犬を飼育する大の犬好き一家がいた。

犬達は母屋とは別の離れで暮らしていたが、‘犬小屋’と呼ぶのは憚られる冷暖房付きの立派な離れだった。


ところが、夏のある日、その離れのエアコンが突如故障した。

飼い主が気が付いた時には、すべての犬が熱中症で瀕死の状態だった。


飼い主は慌てて犬達を動物病院に運び込んだ。


この病院は動物病院としては規模が大きく、獣医師や動物看護師の数も多いが、10頭以上の患者を同時に緊急措置をするには、人手も機材も足りない。

そうなれば、助かる見込みの高い患者を優先せざるを得ない。


実際の現場で‘トリアージ’を行った初めての経験になった。


それでも助かったのは、わずか3頭だった。


熱中症は多臓器不全を引き起こし、下血を繰り返しながら、苦しんで死に至る。

熱中症で動物を死なせた飼い主の後悔は凄まじい。

自らを責め、もしくは家族間でお互いを責め合って、見るに堪えない惨状になる。


動物の熱中症死は毎年数多く起こっている。

獣医療関係者は、その恐怖を必死で飼い主に伝えている。

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小さな命〜動物病院日誌〜 ひよく @hiyokuhiyoku

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