croquis

秋乙女

 濃く低い夏の空は去り、澄んだ青が峰よりはるかに高く広がっていた。

 山中の藪のなかで、草に結ぶのとおなじ露を燃えたつ赤毛に飾って乙女は目をさます。身にまとうのは真っ白な衣だけ。

 葡萄酒色ぶどうしゅの瞳が輝いた。朱のさした頬はふっくらとして、石榴ざくろのごとく赤いくちびるとともにほのかな笑みをかたちづくる。

 かたわらには黄金きんの毛並みの馬が彼女を待っている。乙女は、光をまぶしたようなたてがみをそっとでた。

 乙女が飛び乗ると、馬はかろやかに駆け出した。

 その通り道に木の葉は色づき、山葡萄や烏瓜からすうりが熟れ、さわやかな風が吹いた。

 ふもとへと走る馬と乙女が村にさしかかるとき、ひとりの幼子おさなごが風上にむかって、秋だ、と呟く。

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