「緑色」「影」「いけにえ」邪道ファンタジー

「森ん中の影には触っちゃいけんよ」


 懐かしい声がした。祖母のしわくちゃの、温かな掌が僕の両手を包む。うなずいて、明るい戸外へ出て行く。


 田舎道は太陽に白く浮かび、空は深く青い。入道雲を追いかけていたら、森のふちにたどり着く。

 涼やかな影に誘われる。いけないと言われたのに、僕は足を踏み入れてしまう。


 浮遊感。暗転。


「いけにえの羊も夢を見ましょうぞ」

「そうさな、いけにえの羊とて郷里はあるゆえ」


 顔を覗き込むのは、緑の魔女。ほつれたローブも、へたれたとんがり帽子も鮮やかな緑色をしている。肌を蔦が這っている。


「おまえ、夢を見ていたね」


 僕のまわりには文字と紋様がぐるりとめぐる。魔法陣は淡く光を放っている。


「帰してください」


「さだめだ、受け入れよ」


 魔女が退く。僕は動けない。

 光が増す。

 直後、僕の意識を緑が染めた。

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