「雨」「鞠」「真の流れ」

 雨のそぼ降る中庭は、緑に濡れておりました。温かな慈雨であるのかどうか。わたしの病んだ身体では、触れて確かめるすべもありません。

 見知らぬ少女が木の陰で、何か歌っているようでした。とこから見えるよう低く設えられた窓に手を伸ばします。

 窓はどうやら少し壊れているのです。指も入らぬほど薄くならば、わたしひとりで開けられます。さらさらと雨の音が入り込みました。


 ほら、彼女の歌が聞こえます。

 鞠もないのに、テマリ唄。


 幼い声に聴き入るうちに、雨音は遠くなりました。天より降りくるはずの雫が、地から上へと昇ってゆきます。木の葉が下から弾かれて、水たまりの波紋は外から内へ集まって、雨粒のかたちをとっては天へ還ります。


 少女がわたしを見ました。深々とした瞳でありました。


「命もおなじだと思わない? 真の流れは地から天へ。死から生へ。あなたは死んでゆくの、それとも生へと還ってゆくの?」

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