×××
このことについて語るにはちょいとややこしい手順を踏まなきゃならない。ここでは物語しか許されていないからな。
そうだな。まずは闇について話そうか。俺はこいつの本質を光と捉えているが、光について示すにはまず闇を定義すべきだろう。
あぁ、見かけはまさに闇なんだよ。漆黒ともまた違うんだがね。あの吸い込まれそうな暗さはインパクトがある。世界でいちばん黒い物質を知ってるかい? アート作品で使われたりするんだが、あれは本当に遠近感が狂うね。自分を見失いそうになるよ。この物質だってマットな質感だろう。黒さっていうのは光を吸い込むことさ。艶があると色は深く見えるが、実力派の闇はそんなまやかしは使わない。
その闇に触れるとざらりとしていて、砂漠のようだ。不思議な文様が刻まれているだろう。こいつのことを考えるときに模様なくしては思い起こせないのだが、実際紙にでも描いてみようとすると像を結ばない。
舐めてみたらいい。苦いだろうさ。闇とは苦く、唾液をたやすくもっていく。
光が見えない? 角度を変えればすぐだろうに。ま、よろしい。ではまずその闇を君の指で剥がしてみなさい。さして力はいらないよ。潰してしまっては台無しだ。混沌を生むのは避けねばならない。
できたね。光は神の糧のごとく甘く、なめらかだ。その白さとほのかな芳香でもって君を照らしてくれるだろう。引きはがした闇はどうするかって、君。その胃袋でもって封印してくれよ。大丈夫。過ぎればあらゆるものが毒になりうるが、たいていのものは少量では何の効力もない。
ここでよく観察するんだ。表と裏、光と闇はおよそ一対一で拮抗する。まさに光と闇は表裏一体、互いがなくては存在しえない。たった今闇を飲んだ君ならわかるだろう。単体の闇は苦くざらついている。あまり強い光は目に毒だ。ついでに言えば単体で摂取すればたいていの人間は甘さに辟易する。君がガムシロップを飲むレベルの甘党なら別だが、つまらんだろうさ。
これが俺の思う光と闇の黄金比なんだが、どうだね。え、元のままがいい? さては君、闇の人間だな?
冗談はさておき、もとの比率のこいつを液状の光にひたしたヤツもなかなかだぞ。試してみると良い。初期から含まれている光より健康的だし、甘くもない。君も気に入るんじゃないかと思うよ。
気づいたかい。本来こいつについて語るなら三文字でいい。
――――――オレオ
禁忌を口にするには面倒な手順がいるってわけさ。
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