宴は果てて
お祭りももうすぐ終わりだね。ステージの方もラストスパートって感じ。飛び入りも結構多そうだ。きみは行かなくていいのかい?
ふうん、まぁ無理にとは言わないさ。……僕? 散々踊ったからね。もうネタ切れだよ。
え、何。きみも物好きだよね。僕の話で良ければ、するけどさ。大したエピソードはないよ。僕にとっては輝かしい青春で、原点だけど。言葉にしちゃったらどっか黒歴史ってか、赤っ恥ってか。そんな気分になりそうで。隠すつもりはなかったんだけどわざわざ語ることでもないと思ってた。
僕が始めたのは中学生の頃だよ。なりゆきでね。当時の友達はオタクが多くてさ、いろんなマンガだとかゲームだとかを貸し合ってた。自分でもイラストやらマンガを描く奴もいたわけさ。で、回し読みとかしてて。素人ながら面白くてさ。身内のネタで笑ってたのもあるけど。感想とか言うとき、けっこう自分の好みであれこれ言ってたんだよ。ストーリーとか。絵柄はまぁ、とやかく言うことじゃないかなって。
そうそう、ご推察の通り。じゃ、お前が書けよって話になって。でも絵なんて描けないわけよ。美術の時間にリンゴのデッサンしたことあってさ。教師になんて言われたと思う? その形だと梨に見える、だと。あれって上手いやつが描くとすごいんだよな。鉛筆の一色だけなのに同じリンゴでも紅玉とふじの違いがわかるくらいでさ。あとガラスとアクリルの違いとかも描き分けるし。普通に色付いてるように見える時、あるもん。
あー、脱線したね。ごめんごめん。絵が描けないからどうしたかっていうと、それが小説だったわけ。いらないノートに書いて渡したら結構うけて。良い時代だったよ。なんかモノを作ってる奴って、ジャンルが違っても趣味が違っても「作ること」そのものに敬意を払ってくれるんだよな。気持ちがいい空間だった。
卒業記念にみんなでコピー本作ったりしたし、ああいうふうに過ごせたのはラッキーだったと思うよ。
本? 持ってきてないや。押入れん中だな。だいたいさ、学校のコピー機占領して、職員室のでかいホチキス借りてきて作ったやつなんだ。遠足のしおりの方がまだまともな製本だと思うな。
そのころと比べたら、なんていうのもね。あの時書いてたようなものは二度と書けないだろうな。感覚が違っちゃって。技術なら書けばだんだん上がってくのは自分でもわかるのよ。これからもっと面白いもん書くぞー、とも思うしね。でも自分が通ってきた道を振り返ると、あの頃はよかったなぁって感覚からは逃れられない。
ま、そういうのを青春って呼ぶんだろ、たぶん。
こんなものだよ、僕自身の「始まり」の話は。ほら、そろそろお開きだ。きみも次こそは自分の物語を披露してみたらどうだい?
待っている人もいるだろうさ。
(第2回匿名短編コンテストに続く……?)
(フィクションです)
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