三十一音の往復書簡

◆1月29日 20:47◆


『ケータイ可。いつも通りによろしくね。暇だしきみのうたをききたい。』


「承知した。遠い空から健闘を祈っています。どうかご無事で。

 ”窓ばかり並んだオフィス街の底本当の空を探させてくれ”」


『ありがとう。たまたま窓のない部屋で、空を見たいと思っていたの。

 ”探しなよ俯いてたらUFOや火星人にも気づきやしない”』


「窓のない部屋もあるのか。新鮮な空気を吸えるところはあるの?」


『中庭かロビーでしょうか。好きなのは処置室前の廊下の窓ね。』


「出歩くの自由なんだね。面白いものがあったら教えてほしい。」


『今日までは元気ですもの。手術後は部屋にいるよう言われています。』


「あぁ、そうか。明日なんだっけ。なら早く寝ないとだめだ。おやすみ、”かなた”。」


『まだ九時よ? 消灯までは一時間。だけど言葉に甘えておくね。

 良い夢を。おやすみ、”青いフラミンゴ”。もとい、青さん。今日もありがと。』



◆1月30日 13:16◆


『行ってきます。きみもお仕事頑張って。戻ってきたら連絡するね。』



◆1月30日 21:38◆


「戻る頃でしょうか。どうかゆっくりと休んで。返事は急ぎませんし。」



◆1月31日 20:19◆


「来週は東京ですよ。出張で。きみの頭上を通るだろうか。」











◆2月4日 18:50◆


「冷えますね。暦の上じゃ春ですが。梅のつぼみは固いままです。」








◆2月6日 12:47◆


「羽田です。雪の予報は外れたね。泣きたいほどの快晴ですよ。」



◆2月7日 19:38◆


「旅は良いものです。たとえ仕事でも。いつものデスクに戻るとします。」













◆2月14日 21:52◆


「迷うけど、送るよ。きみの命あることだけいつも祈っているよ。」



◆2月15日 08:29◆


「もうひとつ願っていいか? 君の持つ言葉がどうか生きているよう。

 二度ときくことがなくても構わない。どこかで紡ぎ続けてほしい。」

















◆2月26日 21:15◆


「今朝、梅を見ました。白い梅でした。曇り空にもなお白かった。」



◆2月27日 19:22◆


「本当は後悔してる。きみのうた、言葉、感性、全部好きです。

 ひとことも伝えなかった。うただけがすきだと自分にも嘘ついて。

 届くとは思っていない。だからこそ、これが最後だ。さよなら”かなた”。」
















◆3月1日 15:02◆


『おはよう、と言うには眠りすぎました。二パーセントに当たったようで。

 ようやっと、ここに戻ってこられたよ。やっと言葉を受け取りました。

 ありがとう。わたしもきみのうたがすき。きみの紡いだすべてが好きよ。』


「嬉しいが八割、恥ずかしい二割。壮大すぎてほんとごめんな。」


『最後まで格好つけてよ。一瞬で恋の自覚がついちゃったのに。』


「気持ちはさ、本当だから。あらためてきみの目覚めを祝福します。」



◆3月2日 19:31◆


『決めました。わたし、あなたに会いに行く。あなたの声をきいてみたいよ。』


「本当に? もしもそうならお見舞いに行きたいのだが、可能だろうか?

 お土産は桃のゼリーでどうだろう。前に好きだと言ってたからさ。」


『それはだめ。どうせ初めて会うのなら元気でかわいいわたしでいたい。』


『それまでは、今まで通りだいすきなあなたのうたを届けてほしい。

 一日もはやく元気になるからさ、待ってて。どうかまた信じてて。』


「わかったよ。今の言葉にやられない奴は男じゃないな、絶対。

 たのしみはとっておこうか。それまでは言葉をずっと重ねていこう。」






『「…………』」





◆12月23日 10:42◆


『つきました。ちょっと早いか。赤色のコートに黒いエナメルの靴。

 見つけたらうたで返して。できるなら、文字じゃなくって声がいいかな。』

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