13.ペッパー・ライン・エンターテイナー(お題の単語をそのまま使う+七五調)

 神社へと続くあぜ道、足元の雪は誰にも踏まれていない。新しい道を作っていくように二人並んでゆっくり歩く。平地から山へと変わるその際に、大きな石の鳥居があった。石段の苔をうっすら湿らせて雪が飾りのようにきらめく。慎重に足を進める。終わりなどないようにさえ見えた。ほんと、に。生い茂る木々に紛れて鮮やかな紅を見た。牡丹のようだ。

 頂上で別れを告げた奥さんは「帰ってきたら見せて」と言った。約束は祈りのようだ。私から、何か返してみたくもなって「夕ご飯、楽しみにしていますから。実は料理も教わりたいと思ってて、もしも許してくれるなら台所にも立ちたいんです」「いいわよ」と頷いたとき奥さんの髪を揺らして風が走った。まだ清い朝日が透かす輪郭は金より強く輝いていた。

 薄い雪化粧の村の全貌を背景として奥さんは去る。振り向いて奥へと進む。山門は古いけれども威厳があった。木製の階段はいま閉ざされているようである。残念ながら。拝殿に進んで鈴を鳴らしても、音はあんまり響かなかった。森だとか、雪が吸い込むのだろうか。柏手を打つ。これも静かだ。

 山門の下で画材を広げたら、腕は勝手に動き始める。まっさらな紙にラインを取っていく。心の中は空っぽになる。形から色へと変わる。ボトルから注いだ水で絵の具を溶いた。いくらでも描けそうだった。風景は胡椒ペッパーよりも刺激が強い。

 無意識の水へと沈む合間には、未来のことも考えていた。私には何ができるか。本当にしたいことってどれなのだろう。絵や線や色にはどんな意味がある? 教養、センス、それとも模倣? なりたくてなれるものではないにせよ、私は作る人になりたい。それでしか生きられないとわかってて、なんでいままで逃げていたのか。作る人。先生なんて呼ばれない軽く、綺麗な人生が良い。叶うならエンターテイナーと呼ばれたい。誰かのために筆を持ちたい。


(これにて完走!)

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