5.鉈・病院・逃(七五調を使う)

「興味って」

 確かに綺麗ではあるが、よく見るような写真じゃないか。職を捨て飛びつくほどの引力は感じなかった。首をかしげる。

「その写真、たった十数年前に撮られたんだよ。古く見えても。彼らはね、こういうものを好むんだ。古く、きれいで、静かなものを」

 千世はまた、懐かしそうに目を閉じる。熱に浮かされたような多弁。

「旦那さん、鉈で獣を仕留めたの。初めて行ったときのことだよ。人間の強さを知った気がしたの。ほかにないほどかっこよかった。奥さんは料理上手で穏やかで、明るく笑うきれいな人で。植物の毒や薬に詳しくて、村のみんなが頼りにしてた」

 ねぇ、だから。千世は駄目押しするように語気を強める。だけどとっくに常識は逃げてしまって私には、断る理由なんてないのだ。

「病院か、そこに行くかを選びなよ。見てられないよ。疲れ果ててて絵も色も忘れたような顔をして大人ぶってる美帆子ちゃんとか」

「……ありがとう」

 私はきっと迷わない。千世にもらった信頼だから。飛べなくて苦しんだってもう二度と普通になろうなんてしないよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る