4.紋・戦場・妖精(2222字 or 360字)
「でも、仕事は」
「あくまでそこが美帆子ちゃんの戦場だっていうなら、わたしは止めないよ。ただ、退職願を書くのが億劫ってくらいなら、夜中に妖精さんが用意しといてくれるかもね」
「その妖精、実は悪魔でしょ」
真っ暗な部屋でパソコンの前にうずくまる千世は容易に想像がつく。青白いディスプレイの光に照らされて、キーボードを控えめに鳴らす真面目くさった横顔。
「さぁ、ファンタジーな存在って簡単には分類されてくれないんじゃない?」
すっとぼけたくせに、エプロンのポケットから写真を取り出す。どう考えても仕込みだ。一昔前を思わせるセピア色の背景に、紋付袴の男性と白無垢の女性。結婚記念の写真だろう。褪せ始めているのか、どちらの顔にも千世の面影は見つけられなかった。
「件の家を持ってる親戚のご夫婦がこちら。なかなか麗しいでしょ。興味出てきた?」
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