赤(再考)

 溢れんばかりの彼岸花が咲いていた。曼珠沙華、死人花と異名は数あれど、群れ集まった花はそのどれよりも不気味な迫力を持っていた。それに埋もれるようにして、広い土地には墓石が点在している。

 線香の煙にむせながらも、通い慣れた目的の場所はすぐにわかる。目指す先には先客の女があり、すべらかなうなじを晒してしゃがみ込んでいた。顔を伏せて祈っている。わたしの存在に気づくそぶりもない。

 風が吹いて一面の彼岸花が首を揺らす。女が身じろぐ。何秒か後には目が合うはずだ。どんな顔をしていたらいい? 憎むには証拠が足りず、受け入れるには不審なところがある。共に哀しめるほど相手を知らず、締め出すには縁が深すぎる。

 俯いたまま女は立ち上がる。頸の後ろに骨が浮き出ている。温度のなさそうな肌や癖の全くない髪は人間離れして見えた。この人に刃を突き立てたとして、熱い血潮が噴き出すものだろうか?

 女がゆっくりと振り向く。思わず顔を背ける。目に入るのは鮮やかな花弁の色ばかり。群生する原色がひたすらに眩しい。

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