大粒のサファイアで飾られた王冠を戴いて、若い女王は冷えた指先を震わせていた。侍女がバルコニーに通じる扉を開ける。風が流れ、濃い潮の香りが入り込む。n波の音と重なるように、広間に集まった来賓のざわめきが聞こえた。

 彼女は血の気のない顔をしていたが、立ち姿は凛と決意に満ちている。すべるように歩みを進め、人々の視線のさなかに立つ。外海に向かって大きく開けた広間は光に満ちている。その瞳には晴れ渡る空と凪いだ海が映り込む。即位を寿ぐかのような素晴らしい天気だった。

 新しい女王の姿をみとめ、歓声が上がる。芯の強い微笑みをたたえた彼女の手は、もう震えてなどいない。

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