黄
バスから降りれば、顔を上げるまでもなく視界は菜の花一色である。さびの浮いた停留所案内表示板と、細い一本道だけが異物のよう。柔らかな色をした春の空には綿菓子めいた雲が頼りなげに浮いている。
菜の花は控えめな風貌をしているくせに、敷き詰めればなんと鮮やかに濃く見えるのだろう。大きく息を吸えば、その色に窒息しそうだ。地平線まで染め上げる様はまるで海だ。水の深さを確かめるように一歩、花畑へと踏み出す。葉が、茎が脚にふれる。くすぐったい感触になぜか安心感を覚える。
後ろ髪を引かれるのを無視して、花を傷めぬように奥へと進む。バス停が遠ざかっていく。この平原の真ん中で、誰にも気取られることなく死ねたらどんなに良いだろう。きっとこれまでのすべてを忘れて、穏やかに眠れるはずだ。
ふと、許しも得ずに菜の花畑に踏み入る罪は、入水に少しだけ似ていると思う。
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