白(没)

「期末終わったのにもう勉強?」

 自分の席で参考書を広げていると松野が覗き込んできた。ブラウスの第一ボタンとネクタイは外して長袖なのに袖は肘まで捲り上げ、スカート丈は膝よりだいぶ上。ぜんぶ校則違反だけど彼女にはよく似合う。私がやったら頭がどうかしたとでも思われるだろうけれど。

 試験最終日の早い放課後、生徒はほとんど帰宅してしまって校舎はがらんとしている。冷房はまだちゃんと効いていて、窓一面の夏空もいくらか爽やかに感じられた。

「家より落ち着くから、ちょっとだけね」

「ふぅん。優等生は違うね」

 隣の机に腰を預けて松野は興味も無さそうに言う。視線は私の頭を飛び越えて窓の外だ。

「ね、志田。年取ると色が違って見えるって話しってる?」

「どういうこと、急に」

「水晶体が老化で変色して、今より鮮やかには見えなくなるらしいよ。だからほら」

 つるりとした長い爪が空を指さす。

「今見てる空が、これからの人生でいちばん鮮やかな空なんじゃない?」

 つられて窓の方を見遣る。たしかにそれは鮮烈で、ゆったりと形を変えてゆく入道雲が眩しかった。

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