色彩表現9色(色名は使わない)

 真冬の乾燥した風に大量のシーツがはためく。ミヤコさんは僕の数倍の速さでロープを埋めていく。幼顔の割に節の立った指は的確に動く。籠からシーツを出し、ロープに掛け、皺を伸ばす。思わず見とれていると、ミヤコさんがちらりとこちらに目を向けた。

「手、止まってる」

「すいません」

「これ終わったら休憩にするから。頑張って」

 艶のある声が淡々と告げる。背景の読めないひとだ。僕はかじかんだ指に息を吹きかけて作業を再開する。一陣の風がまたシーツを翻し、つかの間ミヤコさんの姿を隠した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る