第5話

天はまだ俺を見放していなかった、とエベルハルトは朦朧とした意識の中で思った。そしてゆっくりと瞳を閉じ、眠った。



眩しい太陽の光を瞼の裏に感じ、エベルハルトは目を覚ました。彼の身体にはイヴがいつも身につけていた、彼の身体には小さすぎるマントが掛けられていた。しかし、イヴの姿は見つけられない。

また海に潜って魚を捕っているのだろうか、とエベルハルトは考えたが、イヴは目の前に広がる海とは別の方向から現れた。

「おはよう。よく眠れた?てか怪我は大丈夫?」

イヴは両手いっぱいにパンや肉を抱えてやってきた。パンと肉とで視界はほとんど塞がれて足元がおぼつかない様子であるので、エベルハルトはイヴが持つパンや肉のほとんどを持ってやった。

「あぁ、もういい。苦労かけたな。」

「そっか、よかった。あんなの簡単だから気にしなくていいよ。」

荷物をエベルハルトに奪われ手持ち無沙汰になったイヴは両手を後ろで組んで笑った。外が明るい上にいつものマントを身につけていないので、エベルハルトは初めてイヴの顔をしっかりと見た。

雪のように白い肌は陶器のように滑らかで美しく、真っ赤な瞳は肌と髪と同様に真っ白で長い大量の睫毛に縁取られ、ほんのりと桃色に色付いた薄めの唇。海によく入るせいか、無造作なショートヘアは少し傷んでしまっているが、欠点といえばその髪くらいで、人生経験も女性経験も豊富なエベルハルトですらそこそこ上玉だと思うくらいには美しかった。つまり、世間一般に言えばかなりの美少女ということになるだろう。


「なぁイヴ、なぜお前は旅をしている。」

初めて見るイヴの素顔を、思わず値踏みするように眺めてしまったことを誤魔化すように、エベルハルトは聞いた。

「イヴを育ててくれたおばあちゃんがね、ついこの間死んじゃったの。おばあちゃんが最後に"イヴはこんな所で一生を終える子じゃないよ。旅をして世界を見て、自分の本当の居場所を見つけなさい"って言ったから。」

そう答えたイヴの顔は少し悲しみに歪められた。エベルハルトはそんなイヴを慰めることはせず、イヴを育てた老婆の言葉の意味を考えていた。

"イヴの本当の居場所"。その老婆は明らかにイヴの正体を知っている。イヴのことを惑星イヴに返そうとしているのだろう。ということは、やはり惑星イヴは存在するのか。

「……そうか。その旅、お前1人で続ける気か?」

悲しみからか俯いて顔を上げないイヴに向かってパンと肉をサンドイッチにして差し出した。イヴはありがとうと言ってそのサンドイッチを受け取り、食べながら答えた。

「うーん、そうだね。イヴ友達とか仲間とかいないから。」

そう言ってまた寂しそうに笑い、寂しさを打ち消すようにサンドイッチを食べ進める姿は少し痛々しく、この間の戦いの時の大人びた様子とは違って、年相応の少女らしさを感じさせた。


「なぁ、その旅だが……俺が付いて行ってもいいのか?」

エベルハルトもサンドイッチを作り、それを食べながらイヴの方を見ずに言った。

「えっ?うん!いいよ!一緒に行こうよ!」

途端に効果音がついて周りに花でも飛ぶんじゃないかというくらい明るい表情をしたイヴ。

「ねぇ、ハルトはイヴのこと見て気持ち悪いとか思わないの?」

その言葉で、エベルハルトは"友達や仲間がいない"と言ったイヴに何があったかおおよそ理解した。

恐らく、その珍しい容姿から小さい頃にいじめられてきたのだろう。

「あぁ?そんなこと思わねぇよ。綺麗だ。」

半分は本心からで、残りの半分はイヴを懐柔する目的でそう言った。

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亡星の姫 なな子 @nanaco_novel

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