第二ボタンを指先で

@xx88m

第1話 彼は



彼は私の知る誰よりも屈託のない笑顔をする人だった。どんなに怒っていても、それを中和させてしまうくらいの威力を持ち合わせていた。あの頃の帰り道。もうなぜ私があんなに怒っていたのかは思い出せない。でもそれに対して彼は笑顔で私の手をひいた。その瞬間、あんなに高ぶっていた感情は幼い頃母に頭を撫でてもらうような、そんな穏やかさを取り戻す。しかしそんな彼の笑顔を曇らせたのは他ならぬ私だった。だからなのだろうか。だから別れを告げて六年たった今でも彼は私の心を離さないのか。二人で見た映画のタイトルや思い出の日付、壁の写真の日焼け跡。彼との時間は至るところに刻まれていて私を離さない。私だけなのだ。私だけがこんなにもずっと縛られてるのだろう。彼は今頃ー…

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