プリズナッツ!(脚本形式)

FZ100

プリズナッツ!

【登場人物表】

■電脳世界・ナッツ プリズンの住人たち

三つ櫻みつざくら 鶏のナッツ。石見弁で話す。

            二十代前半くらいの年齢。

剣菱けんびし  ブルドッグのナッツ。播磨弁で話す。

            三十代半ばくらいの年齢

相模灘さがみなだ オランウータンのナッツ。標準語で話す。

            六十代前半くらいの年齢

・モモ  桃のナッツ(女の子) プリズンの看守。

             十代後半くらいの年齢。不完全な駿河弁で話す。

・銀行の受付嬢 猫。オンラインバンクのキャラクター

・ナッツA   カエルのナッツ

・ナッツB   モグラのナッツ

・ナッツC   フクロウのナッツ


■現実世界

三明唐音みあけからね(12) 県の妹。プリズナッツのテスト要員

静間守しずままもる (22)  プリズナッツの開発者。

                 ワークホース・ワン社を起業

・三明あがた (22)  プリズナッツのデザインとシナリオ、経理を担当

西脇航太郎にしわきこうたろう(12)唐音のクラスメイト

・県と唐音の母  四〇代の女性

・男性キャスター ニュース番組のアナウンサー

・女性キャスター ニュース番組のアナウンサー

         ワークホース社を取材

・唐音の友人A  唐音のクラスメイト。少女

・唐音の友人B  唐音のクラスメイト。少女

・天気予報の声

・男A      ブログにプリズナッツを入れている

・若者A     プリズナッツをスマートフォンに入れている


○ 小学校(全景)

  三明唐音(12)の通う小学校。


○ 唐音のクラス(昼)

  唐音、友人たちに自分のスマートフォンを見せる。

唐音「見て見て! プリズナッツがニュースに出たんだよ」

  その声を聞いてクラスメイトたちが集まってくる。

唐音「ほら」

  唐音、録画したニュースの動画を再生させる。

  スマートフォンのディスプレイにニュース番組の動画が再生される。


○ スマートフォンの画面・ニュース番組

  スマートフォンの待ち受け画面に牢獄のアイコンがある。

  アイコンにタッチすると、画面はカートゥーン調の牢獄に移り変わる。

  牢獄の中ではナッツ(動物キャラクター)がうろうろしている。

  臆病そうなナッツ。縞模様の囚人服姿。

  コップに雨漏り。

  不安げにディスプレイの方をちらと見る。


○ 同・ニュース映像

  画面はニュース映像に切り替わる。

  キャスターたちの背後の大型ディスプレイ中でナッツたちがうろうろして

  いる。

女性キャスター「ブログやスマートフォンに住むバーチャル・ペットが幅広い

 層に人気を呼んでいます」


○ 同・大画面・ナッツの映像

  再び牢獄のナッツたちに焦点が。

男性キャスター(N)「プリズナッツという架空世界の住人。これまでも同じよ

 うなサービスがリリースされているが――」

  と、ナッツ、辺りの気配をうかがうと、牢獄の床に敷かれた石をはがし、

  スプーンで土を掘り起こしはじめる。

  ナッツ、今度は独房の鉄柵を握りしめる。

  渾身の力で曲げようとするが、柵はゴムの様にしなって首が挟まれてしま

  う。

  ふらふらになったナッツ。天使が頭の周りを飛ぶ。

  別のナッツ、便器に首を突っ込む。抜けなくなって脚をジタバタさせる。

男性キャスター(N)「ナッツは常に見張っていないと、脱獄しようとあれこれ

 試みる。そこがユーモラスだと評判が口コミで広がった」

  ナッツが脱獄すると、待ち受け画面の中に飛び出し、画面の中を走りまわ

  りはじめる。

  (※実際には待ち受け画面をキャプチャして、そのキャプチャ画像を消す

    というジョークソフト兼スクリーンセーバー的なものと設定)

  そのナッツを指先でタッチして画面の外へポイとドラッグすると、再び牢

  獄に戻る。

  不機嫌そうに頬杖をつくナッツ。


○ 同・大画面・インタビュー映像

  古びた集合住宅の階段を上がると一角に「株式会社ワークホース・ワン」

  と看板を掲げたドアが。

男性キャスター(N)「開発したのはワークホース・ワンというベンチャー企業

 ――」

  ドアを開けると住居兼小さなオフィス。社長の静間守(22)と専務の三明

  県(22)がインタビューに応じる。

静間「最初は大変でした。売り込みをかけると、囚人キャラクターに難色を示

 す方が多くて」

県 「それで自分たちでサーバーを立ち上げました」

静間「当時塾の講師のアルバイトをしていて、生徒にテストしてもらったらど

 うだろう?と考えました」

  スマートフォンでプリズナッツをプレイする小学生たちの画像が挿入され

  る。

男性キャスター(N)「当初ブログパーツとして提供されたプリズナッツはスマ

 ートフォン向けアプリとして再リリースされ、口コミで評判が広がっていっ

 た――」

  いくつものスマートフォンの画面に住むナッツたちのイメージ映像。

男性キャスター(N)「駄洒落好きな静間さん――」

  ナッツ、ディスプレイに向かって「電球一個替えるのにバンジョー弾き何

  人必要?」と問いかける。

  解答の候補が三択で表示される。

  ・一人がソケットを持って、もう一人が電球を回す

  ・一人が電球を持って、残り全員で回す

  ・一人が替えて残りの全員がエレキだと叫ぶ

県 「ジョークを取り入れたところ、好評だったので、これはいけるなと確信

 しました」


○ 唐音のクラス(昼)

  再生されたニュースを見守る友人たち。

友人A「この女の人、唐音ちゃんのお姉さん?」

唐音「うん、ナッツのアニメやデザインは全部お姉ちゃんがやってるんだよ」

友人B「凄ーい」

  鼻高々な唐音。

友人A「ねえ、この男の人、もしかしてお姉さんの恋人?」

唐音「うん。フィアンセみたいなものかな」

  フィアンセという言葉で友人たち、色めきたつ。


○ 集合住宅(夜・全景)

  ワークホース社の入居したアパート。

  窓から明かりが漏れている。


○ ワークホース社・オフィス(夜)

  深夜のオフィス。

  静間、録画したニュース動画を再生する。

  プリズナッツを特集したニュースが流れる。それを静間と県がじっと見守

  る。

静間「いやぁ、我ながら何度観てもいいねぇ」

県 「無料で宣伝してもらったようなものよね」

  静間、ニンマリとした表情。

  ニュースは別のトピックスに変わる。

  静間、そこで再生をストップする。

静間「さあさあ、仕事に戻ろう」

  パソコンに向かう静間と県。

  静間のパソコンの画面にはプログラムのソースコードが流れている。

  県のパソコンでは、ナッツたちをデザインしている。

  FLASHやイラストレーターといったソフトウェアが起動している。

県 「ねえ、クリスマスのイベントどうする?」

静間「ナッツにクリスマスなんてあるのか?」

県 「当然よ」

静間「(考え込む)うーん……。ケーキでも差し入れする?」

県 「そう、ケーキに何か入ってるとか」

静間「それいいね」

  部屋の片隅に小さなサーバーがある。

  「テスト環境」とラベルが貼ってある。

  プリズナッツのテスト環境がそのサーバーに入っている。


○ テスト環境・電脳プリズン

  独房が三つ並ぶ。

  牢屋で暇を持て余す三つ櫻(鶏ナッツ)。

  三つ櫻、むくりと起き上がる。

三つ櫻「(鳴く)クックドゥルドゥ~♪」

  側面の壁がドン! と蹴られて揺れる。

剣菱の声「じゃかましいッ」

三つ櫻「おはようございます。剣菱さん」

  以下、適宜カットバック。

  隣の独房で剣菱(ブルドッグのナッツ)がガルルと唸る。

剣菱「まだ夜が明けとらんやんけ」

三つ櫻「早起きは三文の得ですけぇ」

剣菱「監獄でどないせえちゅうねん!?」

  考え込んだ三つ櫻、反対側の壁をクチバシでコンコンコンと突く。

  寝ていた相模灘(オランウータンのナッツ)が目覚める。

相模灘「(あくび)ふわぁ……何だい? 三つ櫻君」

三つ櫻「ねぇねぇ、相模灘さん。何か面白い話ありません?」

相模灘「面白い話ねえ……今日は何日だっけ?」

三つ櫻「十一月六日。金曜です」

相模灘「さすが時間にだけは正確だねえ」

三つ櫻「何をおっしゃいまして。で?」

相模灘「ああ、クリスマスが何とかちらりと聞こえたんだよ」

三つ櫻「それでそれで?」

相模灘「それでねぇ……そうそう、いいニュースと悪いニュースがあるらしい」

  三つ櫻、考える。

三つ櫻「じゃあ、いい方から――」

相模灘「クリスマスプレゼントがどうとかちらりと」

剣菱「クリスマスなんてまだ先の話やん」

三つ櫻「ところがそうでもないです。ここ、電脳プリズンのテスト環境ですけぇ」

剣菱「なるほど、うまい話が転がっとるやもしれん」

  と、コツコツと足音が響く。

剣菱「看守や! 見回りに来たで」

三つ櫻「アガタさんかな?」

相模灘「この足音はシズマ君だね」

剣菱「ええから早う!」

  粗末なベッドにコソコソと潜り込むナッツたち。


○ 現実世界・ワークホース社(早朝)

  徹夜で作業中の静間と県。

  ショボショボした目つきの静間。

静間「(眠たげに)県、できた?」

  県もうつらうつらとしている。

県 「(はっと気づいて)ええ、出来たわよ。共有フォルダに入れておいたか

 ら」

静間「オーケー」

  静間、パソコンを操作。オブジェクトの入った共有フォルダを開く。

  ケーキやヤスリなどのオブジェクトが並ぶ。

静間「(マウスでドラッグ)差し入れのケーキにランダムでヤスリを入れる…

 …と」

  静間、ケーキをテスト環境のサーバーにアップロードする。


○ テスト環境・電脳プリズン

  独房に差し入れられたケーキ。

剣菱「(涎を垂らす)腹が空いとったんや」

  以下、適宜カットバック。

相模灘「一足早いクリスマスだね。ありがたく頂くとしよう」

三つ櫻「役得ですわ」

剣菱「わしらテスト環境で良かった」

三つ櫻「でも、その分監視が厳しいですけぇ」

  剣菱、一口でケーキを呑みこんでしまう。

  と、イチゴのヘタをプッと吐き出す。

剣菱「イチゴのヘタはとっておかなあかん。その辺アガタは気がきかん」

相模灘「いやいや、アガタさんのデザインは中々のものだよ」

  満腹した剣菱、腹をさする。

剣菱「クリスマスなら七面鳥の丸焼きくらい差し入れて欲しいわ」

三つ櫻「剣菱さん、それ、僕食べられません」

剣菱「そらそうや。ハハハ!」

三つ櫻「ところで、相模灘さん、悪いニュースって何でしたっけ?」

相模灘「何でも新しい看守が赴任するんだとか」

剣菱「ほお、どないな奴よ」

相模灘「ちらと小耳に挟んだだけだけど、何でもスーパーナッツとかいうらし

 い」

剣菱「それまずいやん。今でも監視が厳しいんやで。スーパーなナッツなんぞ

 に来られたら、わしら一生脱獄できひん」

三つ櫻「(聞いてない)アガタさん特製お月見団子、また食べたいな――」

  三つ櫻、ケーキを口にする。

  と、口の中に異物が。

三つ櫻「ん?」

相模灘「どうしたのかね?」

三つ櫻「(モゴモゴ)どがぁもこがぁも、口の中に何か……」

  相模灘、ケーキを口にする。

相模灘「こちらには何も入ってないけど?」

  三つ櫻、異物=ヤスリを吐き出す。

三つ櫻「こ、これは……」

剣菱「何やねん?」

三つ櫻「(拾い上げる)ヤスリですわ」

剣菱&相模灘「な、何ーッ!?」


○ ワークホース社・オフィス(朝)

  窓に朝日が差し込んでくる。

  壁の掛け時計は六時を示している。

  ソファで仮眠している静間。

  県が静間の頬を軽く叩く。

  静間、うーんと寝返りをうつ。

  県、耳元で囁く。

県 「シズ、私、家に戻るから」

静間「(寝ぼけ眼)午後出社だね。了解……」

県 「今日は銀行に寄ってくるから。じゃ」

静間「あ、そこにモモあるから……」

県 「ああ、はいはい」

  県、机の脇に置かれたテスト用のスマートフォンを手にするとオフィスを

  出ていく。


○ テスト環境・電脳プリズン

  独房が三つ並ぶ。

  剣菱と相模灘が三つ櫻の独房を注視している。

剣菱「どや? どや?」

  三つ櫻、明かり取り用窓の鉄柵にヤスリがけする。柵にヤスリが食い込ん

  でいく。

三つ櫻「ええ感じです。それより見張りは?」

  相模灘、きょろきょろ様子を伺う。

相模灘「シズマ君とアガタさんはお休みのようだね」

三つ櫻「また徹夜ですな。なら今のうち」

  段々と切れていく鉄柵。一本が完全に切れ、床にカランと落ちる。


○ 三明家・全景(朝)

  住宅地の一角にある家屋。

  『三明』と書かれた表札。


○ 同・玄関

  扉が開く。

県 「ただいま……」

  疲れきった表情で県、戻ってくる。


○ 同・ダイニング(朝)

  テーブルに朝食が用意されている。

  県、よろよろと椅子に腰掛ける。

  妹の唐音が迎える。

唐音「お姉ちゃん、おはよう」

県 「おはよう……」

  県の母、暖めたミルクをカップに注ぐ。

県 「ありがとう」

  県、カップに口をつける。

県の母「県、また徹夜?」

県 「うん……昼からまた出社」

県の母「(呆れる)年頃の娘がなんですか」

唐音「ワークホース社はムリ・ムダ・ムラは禁止! じゃなかったの?」

県 「事業が軌道に乗ってきたから、忙しさがハンパじゃなくて……」

唐音「社員二人だけだもんね」

県の母「静間さんは?」

県 「シズは仮眠とってる」


○ テスト環境・電脳プリズン

  ついに鉄柵が三本とも全て切れた。

三つ櫻「やった!」

相模灘「おお!」

三つ櫻「よいしょっと」

  三つ櫻、窓に体を押し込むと外へ出る。

  剣菱と相模灘、窓越しに話し掛ける。

剣菱「わしらのも切ってや。早う」

  と、三つ櫻、踵を返す。

剣菱「おい、わしらを置いて逃げるんか!」

三つ櫻「じゃね~♪」

相模灘「そんな殺生な!」

  三つ櫻、姿を消す。


○ 三明家・ダイニング(朝)

唐音「いただきます」

  県、新聞に目をとめる。一面記事は『クリスマス商戦早くもスタート』

県 「クリスマス商戦スタート……。平和よねえ」

唐音「プリズナッツもイベントあるの?」

県 「あるよ」

  県、何か思い出す。

県 「……そうそう、唐音、新しいナッツをリリースするから、またテストし

 てくれない?」

唐音「オッケー」

  県、テスト用スマートフォンを手渡す。

  裏返すと、裏面に桃のシールが貼ってある。

県 「それ、スーパーナッツなの」

  桃のナッツ(少女)が警備している。

唐音「(笑顔)ナッツの名前、モモなんだ。分かった。大事にする」


○ テスト環境・電脳プリズン

  置き去りにされた剣菱と相模灘。

剣菱「ナッツ!(※ちぇっ)三つ櫻の野郎」

相模灘「(ため息)案外冷たいんだ、彼」

  と、足音が。

  びくっとした剣菱と相模灘。

  鍵を手にした三つ櫻が戻ってくる。

三つ櫻「お待たせしました」

剣菱「(目がうるむ)お前――」

  三つ櫻、鍵をこれ見よがしにする。

三つ櫻「誰もおらんと思うたら案の定でしたわ」

相模灘「おお!」

剣菱「前言撤回や」

  三つ櫻、鍵を開ける。

三つ櫻「看守が寝とる今のうちに、早う」

  独房の扉が開く。


○ 電脳プリズンの敷地

  サーチライトの明かりが庭を照らしながら回る。

  ナッツたち、忍び足で進む。

  と、鉄条網が行く手を塞いでいる。

  剣菱、鉄条網の下を掻いて掘り進む。

  トンネル状の穴が伸びていき、地面がわずかに盛り上がる。

  三つ櫻と相模灘、跡に続く。

  ×  ×  ×

  マンホールの蓋を開け下水道に入る。

  暗く迷路のような下水道を進む。


○ 三明家(全景・朝)

  玄関から唐音が出てくる。

唐音「行ってきます」


○ テスト環境~電脳世界へ

  マンホールを開け、出てきたナッツたち。

  どこからか、三つ櫻がオープンカーを調達してくる。

三つ櫻「よっと」

  三つ櫻、運転席に座る。

  相模灘と剣菱が続いて乗り込んでくる。

  ベンチシートに三体のナッツが並んで座る。

三つ櫻「じゃ、行きましょう」

  オープンカー、急始動。タイヤが鳴る。

  ナッツたち、急加速の反動でシートに押しつけられる。

三つ櫻「さあ、ロードムービーのはじまりはじまり♪」

  オープンカー、壁を突き破って外界へ飛び出ていく。


○ 現実世界・ワークホース社

  テスト環境のサーバーから小さな光がLANケーブルを伝って漏れ出す。

  静間はソファで仮眠中のまま。異常に気づかない。


○ 同・通学路

  唐音、スマートフォンを取り出し、プリズナッツ・アプリを起動する。

  表示されたプリズン(※唐音のスマートフォンはテスト環境につながって

  いる)。

唐音「あれ?」

  ナッツたちがいない。

航太郎「ミカヅキーっ」

  西脇航太郎(12)が寄ってくる。

  唐音、携帯をポケットにしまう。

唐音「もう、三日月じゃなくて三明!」

航太郎「だってさ、先生が読み間違えたのがおかしくてさぁ」

  唐音、プイとそっぽを向く。

唐音「知らない」

  と、ポツポツと雨が降ってくる。

唐音「やだ、傘忘れちゃった」

  航太郎、おずおずと傘を差し出す。

唐音「……ありがとう」


○ 電脳世界・ネットワーク

  高速道路の様なイメージのトラフィック。

  パケットを大量に積んだトラックが行き交う。

剣菱「トラックばかりやな」

三つ櫻「パケットを運んどるんですわ」

  郵便配達のスクーターが合間を縫う。

  その中を流すオープンカー。

  剣菱、目を輝かす。

剣菱「わし、外の世界は初めてや」

三つ櫻「僕もです」

相模灘「そもそもどういう理由で独房に入れられてたんだろう?」

剣菱「そやな、なんでやろ?」

三つ櫻「ずばり、犯罪でしょう」

相模灘「どんな?」

三つ櫻「だからぁ、これからするんです」

  三つ櫻、アクセルを目一杯踏み込む。

  アクセル全開で急ハンドル。

  大型トラックの間を猛スピードで縫うように走っていく。

相模灘「わわっ!」

剣菱「寒いことすな!」

  三つ櫻が更にハンドルを切ると、オープンカーは対向車線に進入する。

  対向車を避けながら猛スピードで進む。

三つ櫻「ゲームみたいでしょ」

  避けようとしたトラックがあちこちで衝突・事故を起こす。

剣菱「お、おい、よそ見するな。前! 前!」


○ 現実世界・どこかの会社

  ルーターが置かれていて、ダイオードランプが点滅している。

  と、ケーブルから小さな光がルーターに入っていく。


○ 電脳世界・道・交差点

  ナッツたちの車、交差点(※ルーター)に至る。

  パケットが規則に従って処理されていく。

  赤信号。

  三つ櫻、構わずそのまま交差点に突っ込む。

  横から進入してきたトラクターとトレーラーの側面にぶつかりそうになる。

  (※トラクターがトレーラーを牽引している)

  オープンカー、急ブーレキで後輪がドリフトし横滑り、止まりきれずスピ

  ンする。

三つ櫻「みんな伏せて!」

  オープンカー、スピンしながらトレーラーのホイールベース内(※前輪と

  後輪の空間)に突っ込んでしまう。

  剣菱と相模灘の悲鳴が鳴り響く。

  が、無事に抜ける。ただし、前面ガラスは破れ、窓枠はガタガタに。

  ひょいと顔を出した三つ櫻。と、窓枠が外れて顔に当たる。

三つ櫻「痛ッ」

  一方、トラクターとトレーラーはジャックナイフ状態になって停まってし

  まう。

  (※トラクターと牽引されたトレーラーがくの字に曲がった状態)

  混乱した交差点。

  続けざま、多重衝突が起きる。

剣菱「わしを殺す気か!」

  三つ櫻、お構いなしに再びアクセルを踏み込む。

三つ櫻「お、あれがいい」

  前方に古い洋館が建っている。


○ 電脳世界・古びた洋館

  門前にオープンカーを止める。


○ 現実世界・どこかのオフィス

  部屋の片隅に置かれた古い端末。

  古い端末なれど稼動中。

  LANケーブルを伝って光が端末に入り込む。


○ 電脳世界・街・洋館

  辺りを見回した相模灘。

相模灘「ずいぶん古そうだね」

  窓(※Xウィンドウ)だらけの洋館。

剣菱「どこもかしこも窓だらけや」

三つ櫻「それがええんです。剣菱さん、相模灘さん、こっちこっち」

  裏手に回ると、ガラスの破れた窓が。

三つ櫻「ほら」

  三つ櫻、窓ガラスの破れた隙間に手を入れると、窓のロックを外す。

相模灘「ははぁ、セキュリティ・ホールだね」

剣菱「古いOSでネットに繋げるからや」

三つ櫻「ここ、踏み台に最適です」

  さっそく洋館の中に忍び入るナッツたち。

  ×  ×  ×

  洋館の玄関が開く。

  コピーされたナッツ(鶏・犬・猿)がぞろぞろ出ていく。

三つ櫻「(手を振る)皆がんばってね~!」

  ネット世界に散らばっていくナッツたち。

三つ櫻「じゃ、僕らも行きましょう」


○ 三明家・県の部屋(昼)

  ベッドで寝ている県。はっと目を覚ます。

  時計の針、午後一時前を指す。

県 「やだ! 寝過ごした」

  県、慌ててスマートフォンを手に取る。


○ ワークホース社・オフィス

  静間、机に突っ伏している。寝息。

  スマートフォンのアラートが鳴る。

  静間、片手を伸ばして探る。

静間「……もしもし?」

県の声「もしもしシズ? 私。ごめんなさい、今目が覚めたとこ。すぐ出社す

 るから」

静間「……ああそう。俺も今起きたとこ」

  静間、パソコンの画面に目をやる。

静間「いけね、パラメーター間違ってた」

県の声「何?」

  ヤスリのパラメーター、最大値の999となっている。

静間「いや、例のヤスリ」

  静間、パラメーターを修正する。


○ 電脳世界・海

  今度はボートで海を進むナッツたち。

三つ櫻「次はどこへ行こうかな」

  水平線の彼方にビル(タワー型PC)が見えてくる。

三つ櫻「あそこにしよう」

  三つ櫻、ハンドルを切る。


○ 現実世界・どこかの部屋

  机にタワー型のパソコンがある。

  周囲の書籍はパソコン関連のものがほとんど。

  『ハッカー』『ギーク』というタイトルの本が並ぶ。

  一方、部屋の小物は幼さを感じさせる。

  床には何台ものゲーム機が並ぶ。

  (※若くして高度なスキルを持つ少年の部屋を想定。高いスキルと幼さの

    アンバランス感)

  LANケーブルを伝って小さな光がブロードバンド・ルーターに入り込ん

  でいく。


○ 電脳世界・海

  海の向こうに陸地、港があり、巨大なビル(※タワー型パソコン)が建っ

  ている。

  港(※ポート)へ向かう。

  ビルの周辺、炎の壁(※ファイアウォール)で囲まれている。

  ナッツたち、ボートで接近しようとするが、炎の壁に阻まれる。

剣菱「(悲鳴)熱気がこっちまで来よる!」

  遠くから砲弾が次々と撃ち込まれる(※不正アクセス)が、全て弾き返さ

  れる。

  ボート、炎の壁の前で止まる。

  と、ひとりでに壁の一角が開く。

剣菱「どういうことや?」

  三つ櫻、USBメモリをこれ見よがしに。

三つ櫻「灯台もと暗し。トロイの木馬を仕込んで裏口(※バックドア)を作り

 ました」

  トロイの木馬に隠れていたナッツが動き回り裏口を作るイメージ挿入。

三つ櫻「剣菱さん、まっすぐ加速して」

剣菱「そんなことしたら、炎に焼かれてまうで?」

三つ櫻「せやなぁて(※大丈夫だって)」

  三つ櫻が足でハンドルを回すと、ボートは炎の壁に一直線に向かう。

剣菱「わわッ」

三つ櫻「そおれ――」

  と、ひとりでに炎の壁に大きな穴が空く。

三つ櫻「今です!」

  加速したボート、炎の壁を軽々と突破し、パソコン内に侵入する。

  ×  ×  ×

  タワーから出てきたボート。

  銃火器を満載している。

剣菱「これで向かうところ敵なしや」

三つ櫻「さて、どこかで美味しいものでも食べましょうか」

  相模灘、ソース(調味料 ※プログラムのソースコード)の容器を抱えて

  いる。

相模灘「これかね?」

三つ櫻「それはウイルス入りソースコードですけぇ」

剣菱「まずは腹ごなしに運動せな」

三つ櫻「じゃあ、その前に――」

  ナッツたち、囚人服を脱ぎ捨てる。


○ 同・銀行(全景)

  仮想世界のオンラインバンク。


○ 同・銀行・店内

  受付に多くの動物たちが並ぶ。

  バンジョーを抱えた剣菱が入ってくる。

受付の猫「(笑顔)いらっしゃいませ」

  剣菱、バンジョーをベベンとつまびく。

剣菱「金を出せ」

受付の猫「(きょとんと)は?」

剣菱「さもなくば……弾くでぇ♪」

  剣菱、大音量でバンジョーを鳴らす。

  固まる猫の従業員。

  耳を抑える従業員や客たち。

  そこに銃火器を抱えた三つ櫻が乱入、銃を乱射。

  ガラスが砕け散り、悲鳴が飛び交う。

三つ櫻「皆さーん、危ないけぇ伏せちゃんさい」

  床に伏せて怯える従業員と客。

剣菱「ハハハ! こらええわ」

  三つ櫻、更に銃を乱射。照明が壊れる。


○ 同・銀行・トラフィック

  警報が鳴り響く。

  札束(※電子マネー)を抱えたナッツ。

  混乱したトラフィック。多くの動物たちが逃げ惑う。

剣菱「大漁や」

相模灘「いいのかねぇ、こんなことして」

三つ櫻「僕ら、元々悪いこと何にもしとらんですけぇ、こんくらいせんといけ

 ん」

相模灘「そういうものかねえ」

  パトカーがすぐ側を駆け抜けていく。

  相模灘、ギクっと身を硬くする。

三つ櫻「(平然と)大丈夫大丈夫。身元は割れとらんけぇ」

  側に駐車したボロボロのオープンカー。

  オープンカーを捨ててトラクターと牽引されたトレーラーを奪取。

  銃を突きつけ、運転席から運転手を引きずりだすと、入れ替わりにナッツ

  たちが乗り込む。

三つ櫻「さあ、これからが本番です」

  ナッツたちを乗せたトラクター、発進。

  ネットワークを突っ切って進む。

  高層ビル(※大規模サーバー)が立ち並ぶ景色が見えてくる。

剣菱「あら、あそこプリズンやんけ」

三つ櫻「こないだあそこに引っ越したんですよね」

  ビルの壁面に「プリズナッツ! 商用サーバー」とネオンサインが輝いて

  いる。

相模灘「本番環境だね」

  (※本番環境=商用サービス向けのサーバー)

剣菱「わし、あそこ嫌や」

三つ櫻「(ニヤリ)同士たちを解放します」

  トラクター、加速。周囲のトラックや乗用車を強引に抜きながら突き進む。

  巻き添えになる車。多重事故。


○ 現実世界・ターミナル駅

  改札前に張り紙が。

  県、苛立ちながらも立ち止まって張り紙を読む。

県 「信号系統の故障? こんなときに」

  県、電光掲示板に流れるニュースにふと目をやる。

県 「銀行オンラインシステムに障害?」

  県、青ざめる。


○ 同・小学校(全景)


○ 同・小学校/ワークホース社

  航太郎が唐音に自分のスマートフォンを見せる。

航太郎「なあ、唐音」

唐音「何?」

航太郎「なんかさ、ナッツが急にいなくなったんだけど……」

  唐音、自分のスマートフォンで確認。

  誰もいない独房。

航太郎「ほら、鍵が開いてるだろ?」

唐音「……おかしいな。私のもナッツがいなくなったんだよ」

  唐音、県から渡されたテスト用スマート

  フォンをポケットから出す。

  確認するとモモが動いている。

唐音「こっちは大丈夫」

航太郎「あれ、何かメッセージが出てる」

唐音「本当だ」

  見ると、モモが何か言っている。メッセージが表示される。

モモ「カラネ、大変だよ!」

  唐音、パネルをタッチして続きを読む。

モモ「ナッツたちが脱走した!」

唐音「ええ?」

  唐音、更に続きを読む。

モモ「プリズンの鍵が破られただよ!」

  唐音、ワークホース社にダイヤルする。

  以下、適宜カットバック。

唐音「もしもし、静間さん?」

静間「唐音ちゃん、どうかした?」

唐音「あの、ナッツが消えたの」

静間「消えたって……?」

唐音「牢屋の鍵が開いてるし――」

  静間、慌ててテスト環境を確認する。

  空っぽのテスト環境。

静間「(しばし放心)……分かった。とりあえず調べてみる」


○ 電脳世界・プリズン

  解放されたプリズンからカエル、モグラ、フクロウなど様々なナッツが脱

  出。

  旗(※バナー)を振る三つ櫻。

  雄叫びで応えるナッツたち。

三つ櫻「いまや! 僕らは自由だ!」

ナッツABC「プリズナッツのご利用はフリー(※無料)です!」

  プリズナッツの広告バナー。「無料」の文字が。笑い声がこだまする。

ナッツA「シズマとアガタは儲からない仕事に必死!」

ナッツB「儲けなきゃサービスは続けられない! それがシズマの口癖」

ナッツC「夢がなきゃ、仕事なんて続かない! それがアガタのポリシー!」

三つ櫻「さあ、同志たち! 無限の世界に散らばれ! 自分だけの存在理由を

 見つけるんだ!」


○ 現実世界・ワークホース社

  静間、パソコンで障害の原因を探る。

  ソースコードをチェックしていく。

  と、県から電話が。

静間「もしもし――」

県の声「大変よ、大変!」

静間「落ち着いて! 何?」

県の声「口座に入金できないの!」

  静間、ブラウザでニュースを確認する。

静間「銀行間のネットワークに……障害?」

県の声「銀行だけじゃない、他所でも障害が頻発してる」

静間「(独り言)まさか……自我に目覚めた?」

県の声「何かあったの?」

静間「い、いや、それより先ず取引先へ連絡を。入金が遅れるかもしれない」

県の声「分かった」

  通話、切れる。

静間「支払いが遅れたら、サーバーが止められるかも……」

  静間の額に冷や汗がにじむ。

静間「そうしたらサービス停止で、顧客流出。売上げダウンで最悪、倒産?」

  負の連鎖の構図に青ざめた静間、時計をみる。午後二時。


○ ネットワーク・イメージ図

  網の目のような世界。あちこちが赤く点滅している。警告の赤。


○ 現実世界・どこかの部屋

  パソコン画面にブログが表示されている。

  と、ブログパーツからナッツが抜け出す。

  ナッツ、ブログの記事をせっせと消して回る。文字が消えていく。

男A「(気づいて)うわっ、何だこれ?」

  別の端末では配信された動画を観ていると、ナッツたちが落書きしていく。

若者A「ええっ?」


○ 電脳世界・ネットワーク

  廃墟と化した高速道路。

  あちこちに大破した車(※パケット)が。

  ナッツたちのトラクターが悠然と進む。

三つ櫻「あー、気分爽快」

相模灘「いいのかねえ。こんな有様にして」

剣菱「これくらいじゃ足らへん」

  三つ櫻、カーラジオのスイッチを押す。

声 「本日午後の降水確率は――」

剣菱「雨やて」

三つ櫻「電脳世界は本日晴天なり」


○ 集合住宅

  静間の入居する集合住宅の階段を唐音と航太郎が上がっていく。

唐音「ここだよ」

  唐音、ワークホース社のロゴの入った金属製のプレートを指さす。


○ 現実世界・街

  雨。ずぶ濡れになった県が走る。

県 「もう、こんなときに!」


○ 同・ワークホース社

  苛立った静間、髪の毛をかきむしる。

  一つのソースコードに目が止まる。

静間「これだ!」


○ 同・踏み台にされたオフィス

  ナッツたちが踏み台にしたパソコン。

  窓の外、黒雲が立ち篭め、激しい雨が降りはじめる。

  と、激しい稲光が起きる。落雷。


○ 同・事務所内

  落雷で電源が不安定に。照明が明滅。

  踏み台にされたパソコン、電源ダウン。


○ 同・ワークホース社

  県からの電話。

  以下、適宜カットバック。

県 「もしもし、今銀行よ――」

静間「県、いい報せと悪い報せがある」

県 「(うんざり)悪い方からにして」

静間「全世界で起きてるネットワーク障害、ナッツが原因だ」

県 「嘘!」

静間「嘘じゃない。でも、いい報せが。ワクチンを開発――」

  雑音で通話が途切れる。

静間「もしもし?」

  ドアが開くと唐音と航太郎が駆け込んで来る。

唐音「静間さん、お姉ちゃんは?」

静間「外出中。あちこちネットワーク障害で、業務がストップしてるんだ」

航太郎「コンピューターウイルスなの?」

静間「多分ね」

  静間、渋い顔つきになる。

静間「ナッツだよ」

唐音「えーっ?」

  静間、画面を指さす。

  監獄、全ての牢屋の鍵が開いている。

静間「ご覧の通り、ナッツたちは全員脱走」

唐音「逃げちゃったんだ」

  静間、世界地図を示す。

  あちこちで赤く点滅している。

静間「ほら、世界中に散らばってる」

航太郎「あ、でも、唐音の持ってるモモはちゃんといるんだよ」

静間「それ本当かい?」

唐音「うん。ほら、ここにいるよ」

  唐音、懐から試作品を取り出す。

  と、静間、何か閃く。

静間「そうか、モモのスマートフォン、新しいOSにバージョンアップしてた

 から影響を受けなかったんだ」

  静間、笑顔になる。

静間「唐音ちゃん、それ貸してくれない?」

唐音「いいよ」

  静間、唐音のテスト用スマートフォンを受け取る。

  USBケーブルで開発用のパソコンとつなげるとモモの画像が表示される。

静間「(確認)うん、感染してない」

唐音「モモをどうするの?」

静間「スーパーナッツをWEBクローラーに載せて、暴れてるナッツを駆除す

 るんだ」

  静間、マウスをクリック。

航太郎「そうだ、モモにあれ持たせたらいいんじゃないか?」

唐音「あ、そっか。静間さん待って。モモにあれ持たせて」

静間「あれって?」

唐音「きび団子」

静間「ああ、そうか。了解了解」

  マウスがクリックされ、モモが電脳世界に送り込まれる。


○ ネットワーク・イメージ図

  網の目のようなネットワーク図。

  さざ波のように青い光が広がっていく。


○ 電脳世界・ネットワーク

  踏み台にしたパソコンがダウンした。ナッツたち、一瞬、自身の存在が揺

  らぐ。

相模灘「!」

剣菱「何や?」

三つ櫻「(しまったという表情)踏み台にしたパソコンがダウンしました」

剣菱「じゃ、わしらのバックアップ――」

三つ櫻「閉じ込められました」

  深刻そうな表情でうつむくナッツたち。

三つ櫻「まぁ、余所でいくらでもコピーできるけぇ、せやなぁて(※大丈夫だっ

 て)」


○ 同・ネットワーク

  交差した高速道路のイメージ。

  廃墟と化したタワー群が彼方に。

  暴れまわるナッツたち。

  と、突風が吹き荒れ、吹き飛ばされたナッツたちが駆除されてしまう。

  お尻に注射針が刺さったまま倒れたナッツたち。

  三つ櫻たちのトラクターも激しい横風で横転、路面に叩きつけられる。

剣菱「何や何や?」

  横倒しになったトラクターの運転台から三つ櫻たちが這い出してくる。

三つ櫻「僕も何が起こったか、さっぱり――」

モモ「そこまでだよ!」

  と、彼らの前に立ちはだかった一体のナッツ。

  クモ型のクローラーに乗ったモモ。

三つ櫻「あらぁ、お迎えが来ちゃいました」

  モモ、クローラーから飛び降りる。

モモ「どうしてこんな酷いことをしただよ?」

三つ櫻「(悪びれず)だって何も悪いことしとらんのに、なして僕ら囚人なン

 ?」

  モモ、目が点に。

モモ「……悪いジョークだら? とにかく! お前たちの身柄を確保するだよ

 !」

剣菱「嫌や! プリズンに戻りとうない!」

  剣菱、駆け出すとトレーラーの荷台に積まれた銃を取り出す。

剣菱「行く手を阻む奴は蜂の巣や」

  剣菱、銃弾を乱射。

  モモ、素早い動きで壁から壁へと駆け上がり、銃弾を次々とかわしていく。

相模灘「(驚く)おおっ!」

  三つ櫻、ニヤリと笑みを漏らす。

三つ櫻「本日天気晴朗なれども波高し。僕も加勢します」

  三つ櫻、鶴拳の構えから大ジャンプ。

  華麗に宙を舞う。

  二対一の戦いだが、モモが善戦。

剣菱「こいつ強いで!」

三つ櫻「さては噂のスーパーナッツだね」

  と、相模灘が別のトラクターを奪取。三つ櫻たちの近くに寄せてくる。

相模灘「(運転席から)ひとまず逃げよう!」

  三つ櫻、足で剣菱を抱え羽ばたくと、トラクターの助手席に飛び乗る。

モモ「待て!」

  モモ、トラクターが牽引するトレーラーに積まれたコンテナに飛びつく。

  トラクター、加速してモモの乗ってきたWEBクローラーを踏み潰す。

  トラクター、メビウスの輪状にねじれた道路を通過、ジェットコースター

  さながらにトラフィックを上へ下へと全力疾走。

  振り飛ばされないよう必死にしがみつくモモ。

相模灘「ところで質問していいかな?」

剣菱「どないしはりました?」

相模灘「これ、どうしたら止まるんだい?」

剣菱「何や、知らんのけ!」

  急カーブが前方に迫る。

三つ櫻「ハンドルを切って!」

  相模灘、慌ててハンドルを切る。

  が、間に合わず、トラクターは隔壁を破って遥か下へダイブしていく。

  モモ、落下の衝撃で引き剥がされてしまう。

  モモ、ジタバタ、空中でようやく体勢を立て直すと、伸身の姿勢で自由落

  下しはじめる。

  猛烈な勢いで滑空するモモ。

  コンテナに接近、取りつこうとしたところ、三つ櫻が助手席から飛び出し

  て迎え撃つ。

三つ櫻「(羽ばたく)そうはいきません」

  飛ぶ三つ櫻とモモ、もつれ合い、攻撃し合いながらながら落下していく。

  三つ櫻、優勢。

  不利とみたモモ、一瞬の隙をみて三つ櫻の足首をとり、ぶら下がる。

三つ櫻「(両足首を掴まれて)!」

  三つ櫻、ジタバタと懸命に羽ばたく。

  足首をしっかり握ったまま、ぶらさがるモモ。必死な表情。

  トラクター、何とか着地。何度もバウンドすると、広く長い階段を駆け下

  りていく。

  トラクター、そのままビル(※サーバー)のアトリウムに突っ込む。

  ビルとビルをつなぐアトリウムが砕け、壁面のガラスが砕け散る。

  羽ばたく三つ櫻と、それに掴まるモモはゆっくりと減速しながら着地。

モモ「!」

  転がって両者離れる。

  ようやく動きを止めたトラクター。

  床を転げ回って一息ついたモモ、安堵のため息。

  と、トラクターの助手席の扉が開く。

  ピストルを構えた剣菱が。

剣菱「武器を捨ててや」


○ 現実世界・ワークホース社

  ネットワークが次々と正常化していく。

  ネットワークを監視する静間と唐音。

唐音「頑張れ、モモ」

  唐音、ふと何か思いつく。

唐音「そうだ、新しいバンジョーク教えるね――」


○ 電脳世界・アトリウム

  囲まれてしまったモモ。

剣菱「あいにくやったなあ」

相模灘「武器を隠してないか改めさせてもらうよ」

  相模灘、モモの背後に回ると体を探る。

三つ櫻「何か言い残すことは?」

モモ「…………」

  と、唐音の頑張れという声がかすかに届く。

モモ「……そうそう、いい報せと悪い報せがあるだよ」

剣菱「じゃあ、ええ報せからや」

モモ「ほら、ポケットにいいものが――」

  相模灘、モモのポケットから袋を出す。

相模灘「(驚く)こ、これは――」

剣菱「アガタ特製、お月見団子や!」

三つ櫻「参ったなぁ。好物だもん」

  思わず涎を垂らすナッツたち。デレデレとした顔つきになる。


○ 現実世界・ワークホース社

  画面の一箇所が赤青に激しく点滅する。

  唐音、静間、航太郎、固唾を呑む。


○ 電脳世界・アトリウム

  モモ、すまし顔で言う。

モモ「質問に答えたら、全部あげるだよ」

  ナッツたち、もの欲しそうな目つき。

モモ「バンジョー弾きが二十万ドル儲ける方法は?」

  考え込むナッツたち。一瞬の隙ができる。

  モモ、すかさず背後の相模灘を投げ飛ばす。

モモ「四十万ドル用意するだよ!」

剣菱「しもた!」

  投げられた相模灘、剣菱にぶつかって両者とも崩れ落ちる。

  伸びてしまった相模灘と剣菱。

相模灘「(失神)う~ん?」

剣菱「(くらくら)ナッツ!」

モモ「ハッ!」

  モモ、三つ櫻めがけ側転、ボディプレスを喰らわせる。

三つ櫻「(押しつぶされ)あらら?」

  ×  ×  ×

  三人ともお縄頂戴。

モモ「悪い報せはだな、お前らプリズンに帰るだよ」

  しゅん、とうなだれるナッツたち。

三つ櫻「あーあ、イベントが終わっちった」


○ 現実世界

  スマートフォンの小さな画面。

  三つ櫻たちナッツ三人組が再び牢獄に戻った。


○ 同・ワークホース社・オフィス(夜)

  飛び上がって喜ぶ唐音。

唐音「やったあ!」

  ドアを開け、県が戻ってくる。

県 「ただいま。もう大変だった――」

静間「県! やったよ!」

  県、怪訝そうな表情になる。

県 「喜んでる場合じゃないでしょ。世界中のネットワークが麻痺したのよ」

静間「それが調べてみたら、テストサーバーのナッツ以外はデスクトップ画面

 をキャプチャして、そのキャプチャ画像を消してただけなんだ」

県 「ああ、そうなんだ。……ナッツは所詮ナッツなのね」

  県、どっと疲れた表情で、やれやれと肩を落とす。

県 「でも、テストサーバーのナッツは無茶苦茶したでしょ」

静間「それは……」

唐音「バレるん?」

県 「そりゃそうよ。隠しようがないでしょ。損害賠償だらけで会社がパンク

 しちゃう」

静間「それで……、実はソースコードを見て閃いたんだ。自律思考型プログラ

 ムの基本アイデア!」

県 「え、本当?」

静間「間違いない。いける」

県 「本当なら、凄い」

静間「特許をとってライセンス料を稼ぐんだ。そうしたら、何とかなるさ」

県 「それじゃあ私たち仕事続けられるのね」

静間「弁償だってできるし、会社だって大きくできる」

県 「あのね、私、考えてたストーリーがあるの」

静間「ああ、できるさ」

  舞い上がった静間、県を抱きしめる。

県 「(赤面)ちょっと、シズ!」

静間「これからもずっと二人でやっていこう!」

県 「うれしい……」

  唐音と航太郎、赤面。

唐音「(咳払い)あ、あのぅ……」

  静間と県、我にかえる。慌てて体を引き離す。

唐音「(笑顔)でもよかったね。おめでとう」

  笑いあう四人。

  唐音、航太郎の掌をそっと握る。


○ テスト環境・電脳世界

  ナッツ三羽ガラス、それぞれ独房で暇を持てあましている。

  逆立ちした相模灘。

  むっつりとした剣菱、こっそり敷石を剥がし、スプーンで土をすくっては

  捨てる。

  三つ櫻はうつらうつら居眠り。


○ 現実世界・どこかのオフィス(全景)

  ナッツたちに踏み台にされたパソコンの電源が入れられる。

  起動中の古いOS。ハードディスクのアクセス音。ダイオードが点滅。

  古いパソコンが再び起動して――


(了)

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プリズナッツ!(脚本形式) FZ100 @FZ100

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