第4話 冬の鳥
翌日の朝から、弦朗君は枕が上がらなくなり、ひたすら寝台の上で過ごした。思えば、明徳太妃の賀宴の後からぴんと張っていた緊張の糸が緩むことはなく、昨日の聴取から解放されたとたん、傷の痛みと相まって一気に身体が悲鳴を上げた気がする。
いま弦朗君が横になっている寝台の帳は開けてあるので、花窓の障子に冬の鳥が映っているのが見えた。傷から発した熱がまだ高く、視界がぼうっと霞む。
彼は看病など身の回りの世話をするのはトルグひとりと決め、承徳の光山府への出入りは一時差し止めた。予想通り承徳は荒れ狂い、この非常の時には瑞慶府治へ詰めておらねばならぬというのに、また昼間から
――仕方のない奴だな。じきに我らにも追討の王令が下るだろうに。
弦朗君は苦笑した。
――それにしても、山場は越えただろうか。
大捕り物も控えていることだし、まだ油断はできないが、王自らの自分に対する尋問は今のところ予定されていない。恐らくは、祖母である明徳太妃が自身の威光をもって、孫に手が及ばぬよう陰ながら庇護しているのかもしれない。
だが、問題は宰領府である。自分の聴取に当たった呉一思は、何を考えているのか計り知れぬ人物であるが、光山府に対する嫌疑を完全には拭っていないものと見えた。だからこそ、弦朗君は万一のことを考え承徳には累を及ぼさぬように「出入り禁止」の手を打ったのだが、肝心の本人にはその意が伝わっていない。というより、鈍くて一向に気が付いていない様子である。
――あれも、出仕してもう一年は経つというのに。
部下の成長のなさに、弦朗君は嘆息した。そしてもう一人、本来ならば今頃とうに出仕していた筈の若者を思い出し、寝衣の右袖を
「『死なない程度に』と頼んだが、思い切り傷をつけていってくれたな…」
彼の肘から手首近くにかけて、はっきりとした傷跡が残っている。これは時が経っても消えることがないだろう。他にも、そこかしこに切り傷や痣が残っている。自分が立てたはかりごとのため敏に行わせたことといえ、その時の痛みを思い返して弦朗君は顏を
同日の夕刻、弦朗君は承徳の光山府出入りの差し止めを解除して呼び出した。光山府も安全というわけではないが、妓楼に居させるよりもよほどましである。だが、本人が現れたのは弦朗君の
まだ熱が完全に下がらぬとはいえ、体調を持ち直した弦朗君は寝衣から常服に着替えた。待ち人がいるためもあったが、何よりいつ王命が下っても良いようにという心積もりである。彼は正堂で書見をしながら、その来るべき人間を辛抱強く待っていたが、やがて戸口で
「…お召しにより参じました」
弦朗君は眼を細め、不貞腐れたような表情の部下を見やった。
「青黛楼の酒はどうだった?甘露のごとしか?」
その言葉に皮肉を感じ取ったのか、承徳は仏頂面をさらに硬化させる。
「光山様に、無礼を百も承知で申し上げます。お聞かせ願いたい、いったい私は
激したような、噛みつくような、部下の物言いにしてはあるまじき口調。二人の間には微妙な緊張が落ちた。
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