#117 

「おい…」

 

 青年たちは、フェンスの前で立ちすくんでいた。

 フェンスには、『この先 立ち入り禁止』と赤く書かれた標識が貼り付けられている。

 

「でも…あの子、フェンス越えてっちゃったぜ?」

「このまま見失ったら、どこまで行くか分かんねーし…」

「でも、さっき電話したんだろ? もう向かってきてるなら、これ以上追っかけなくても…」

「いや、行こうぜ」

 青年の1人が、フェンスに飛びついた。そのまま足を上げ、フェンスを乗り越える。

「いや、早まるなよ! 立ち入り禁止だぜ?!」

「良いから行くぞ! あの子、もう見えなくなりそうだ!」

「ちっ、ちくしょー…」


 豆粒のように小さくなった少女の背中から目を離さないまま、青年たちは走り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「準備完了です〜!!!」

 

 アリツカゲラの掛け声に、フレンズ達は両手を上げて歓喜した。中にはハイタッチしている者もいる。

 

 夕焼け空をバックに、華やかとは言えないが、小さなパーティ会場が設営された。

 

 あとは、アスカ達スタッフを呼ぶのみだ。

 

「じゃあ、よろしくね!」

「任せてちょうだい! すぐに呼んでくるわ!」

「日が暮れる前にねー」

 

 早く飛べるフレンズ達が、ホートク中に散らばっている職員を呼びに行こうとした、その時。

 

 

「……た、助けて…」


 気弱な泣き声が、フレンズ達の耳に入った。


 フレンズ達は一斉に声のした方を向く。

 


 すると。

 

 

 

 アスカに首を押さえられた少女が、涙を流しながらフレンズ達を見ていた。

 

 アスカは無表情だった。

 

「…アスカ? 何やってるの!?」

「どういうこと…?」

「その子、どこから連れてきたの!?」

「かわいそうじゃん! 離してあげてよ!」

 

 しかし、アスカは動かない。少女だけが、顔を真っ赤にしながら鼻をすすっている。

 

「アスカ! 何してるんだよ!?」

「どういうつもりですか!?」

 

 フレンズ達の怒声をしばらく浴びた後、アスカはようやく口を開いた。

 

 

「…こんな自分勝手な世界で」

 

 

「…?」

 フレンズ達は、アスカを不審な目で見ている。

 

 

「あんなに自分勝手な人間を、どうして好きになるんだ? …私たちは何も悪くない。悪くないのに…」

 

 アスカは歯を食いしばる。

 

「人間は理不尽なんだ。何で人間がお前らとこんなに仲良くしているのか、分かるか?」

 

 フレンズ達の返事を聞く間もなく、彼女は答える。

 

 

「お前らを『利用』してるからだ」

 

 

「…どういう意味でしょう?」

 

 2人のフレンズが、アスカの前に出た。

 博士と助手である。

 

「そもそも、お前は『アスカ』ではありませんね」

 そう言って睨みつけてくる博士に、アスカは少し口角を上げる。

「…本物のアスカだったら、どうする?」

「お前はアスカではない」

「本当かな? その信頼が危険なんだよ」

「…信頼が?」

「さっき言ったことと同じだ。人は利益を生み出し、生きていかなければならない。生きるためには、働く場所が必要なんだ」

 既に意味が分からず、首を傾げるフレンズが出てきた。アスカは構わず続ける。

「お前らは、人間のその『利益』のためにいるんだ。利用されてるんだよ」

「…意味が分かりませんね」

「その顔は分かっているだろ? 不思議な不思議なフレンズという生き物を公にすれば、人は自然と集まってくる。入場料を払い、食事代を払い、その収益が人の生きるためのモノになる」

「………」

「用は、お前らフレンズは、人が生きるためだけに存在してるって訳だ」

「信用なりませんね」

「すぐに信じろなんて言わないよ。でも、それが事実なんだ……人は、自分たちの安全のためならすぐにパークからも出ていく。お前らを置いて」

「お前は何者ですか」


「…パークに、本当に必要とされていない生き物だよ」

 

 アスカがそう言った瞬間、息を切らした青年3人が、山頂まで登ってきた。

 

「何だここ…あっ!!」

「はぁ、はぁ…えっ?」

「い、いた…!」

 少女を指さすや否や、青年たちは何か違和感があることに気がつく。

 お世辞にも丁寧とは言えない、ガイドの少女の抱え方。緊張した面向きのフレンズ達。

 

 何かがおかしい。

「おい…どうなってんだ?」

「突然 姿を消すから何となくここに来てみたけど…空気おかしくねーか?」

 コソコソと話す青年たちをみて、アスカは口を曲げる。

 


「美咲!!」

 

 立て続けに、少女の父親が姿を現した。続いてガイドもやって来る。

 

 アスカは怪訝そうな表示を浮かべた。

 

「…アスカさん?」

 ガイドは、少女を押さえるアスカに眉をひそめる。

 

「み、見つかって良かったです…! すぐにセントラルパークへ…」

 アスカは返事どころか、目も合わせようとしない。

「…アスカさん? あの…アスカ…さん?」

 ガイドは困惑した。

「美咲! 無事で良かった! あの、美咲を…」

 父親が引き取ろうにも、アスカは動かない。

 場の空気が更に悪くなる。

 

『…こちら小田。迷子は見つかった?』


 突然、ガイドの無線からアスカの声がした。

「…え?」

 ガイドは見開く。

『応答願います。迷子は見つかりそう?』

「…あ、あの…」

『何? もっとはっきり話して!』

「アスカさん…目の前にいるんですが…」

『はぁ!?』

「い、いるんです! 本当に! それで、迷子を離してくれなくて…」

『場所は!?』

「ひかり山山頂です!」

『今すぐ向かう!』

「は、はいっ!」

 

 無線が切れる。

 

 瞬間、その場にいた全員が確信した。

 

 

 

 

 こいつは、アスカじゃない…!!

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砂星のひかり あれくとりす @FliendsToriTori

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