ボクならできる影で助ける影踏み遊び(恋愛)(1200字)
ボクははぐれ雨雲だ。今日も空から小学生児童たちが遊ぶのを眺めている。あ、いるいる。
「おーい、影踏みしようぜ」
「オレが鬼な。みんな、逃げろー」
校舎の陰に入っていた児童たちが散った。文夫は景美ちゃん目掛けて一直線に走っていく。思った通りだ。そうはさせるか。
「おーい、景美ー、影、踏んじゃうぞー」
「いやー、こっち来ないでー」
「へへへ。そーれ、影をふ、あ、あれれ」
文夫の動きが止まった。どうだ参ったか。ボクが景美ちゃんの上に移動して影を消したのだ。これで影を踏めないだろう、ふっふっふ。
「景美、陰の中にいるのは十数えるまでだからな、いーち、にー……」
十まで数え終わった。景美が僕の陰を出て走り出す。文夫が追う。
「そーれ、景美ー、影、踏んじゃうぞー」
「いやー、来ないでー」
「へっへっへ。今度こそ影をふ、あ、あれれ」
文夫の動きが止まった。当然だ。またボクが移動して景美ちゃんをボクの陰に入れてしまったのだ。文夫が空を見上げて悔しがっている。
「おい、そこの雨雲。おかしいだろ。なんで景美だけ陰になるんだよ」
へっ、それをおまえに答える義務なんかないさ。さあ、いい加減に景美ちゃんを諦めて別の児童を狙うんだな。
「雨雲、あっち行け、消えろ!」
まだ叫んでいる。うるさいなあ。そんな言葉でボクがひるむとでも思っているのかい。ボクは平然と景美ちゃんを陰に入れ続けた。今度は一緒に動いているので景美ちゃんはずっと陰の中だ。景美ちゃん、これで君は安全だよ。誰にも影を踏まれずにこの遊びを終了することが……
「ちょっと、そこの雨雲、邪魔よ!」
えっ……
ボクは絶句した。景美ちゃんの言葉とは思えなかった。
「あんたがあたしを陰の中に入れ続けるから、文夫君に踏んでもらえないじゃない」
な、なんだって! まさか、景美ちゃん、君は文夫と……
「おいおい、景美。こんなところで何を言い出すんだい、照れるじゃないか」
「だって、あの雨雲邪魔なんだもん。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られちゃえばいいのよ。行きましょ、文夫君」
景美ちゃんと文夫は仲良く手をつないで日なたへと歩いて行った。黙って二人を見送るボク。そうか、二人はデキていたのか。ああ、なんて愚かだったんだろう。
ボクは泣いた。地上には雨が降る。これはボクの涙雨。そうして泣き続けたボクの涙が尽きた時には、景美ちゃんへの想いもボクの体もきれいさっぱりこの世からなくなっていた。
雲ひとつない青空だけを残して……
このお話とよく似た題名の作品「誰にでもできる影から助ける魔王討伐」は、
https://kakuyomu.jp/works/1177354054880238351
エンターブレイン単行本から絶賛発売中!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます