The video name with no game(ホラー)(2000字)
お年玉をもらったボクはその日の午後、電気街へ直行した。買うのはもちろんゲームソフト。自分で言うのもなんだけど、アクション、RPG、パズルなどなど、あらゆる種類のゲームをやりこんでいるんだ。
「どれにしようかなあ」
新作ソフトもとっくにクリアしちゃったし、今はこれと言ってやりたいゲームもない。昔のゲームで何か面白い物はないかなあと中古のワゴンを漁っていると、
「なんだこれ、ノーゲーム? 変なタイトルだな」
妙に古臭いパッケージのゲームを発見した。ノーゲームの文字と無意味な幾何学模様だけが書かれている。説明文はもちろんキャッチコピーすらないので、どんなジャンルのゲームなのか見当がつかない。
「どうもクソゲーの香りがプンプンするなあ。値段は……百円! や、安い」
これは間違いなくハズレだ、ボクはそう思ったけど、それがかえってボクのゲーム魂に火を点けた。たまにはクソゲーを
「おや、そのゲームを買いなさるかね。気を付けた方がいいよ、それは呪われているからねえ」
いつのまに後ろに立っていたのだろう、一人の老婆がボクの背後から覗き込んでいたのだ。
「えっ、呪われているってどういう意味?」
「プレイしてみれば分かるよ。ホッホッホッ」
老婆はそれだけを言い残してどこかへ行ってしまった。ボクのゲーム魂は更に燃え上がった。よし、やってやろうじゃないか。呪いなんかボクの情熱で吹き飛ばしてやる。
家に帰ったボクはさっそくパッケージを開けた。中にはDVDが一枚あるだけ。説明書や解説書の類は一切ない。
「まあ、いいや。プレイしてみれば分かるだろう」
DVDをセットしてゲームを始める。画面を見てボクは拍子抜けした。ありふれたプロ野球のゲームだったのだ。チームを決め、出場選手を決め、オーダーを決めて試合開始。野球ゲームは何度もやっている。ゲームシステムはほとんど同じなので、画面の指示に従っているだけでゲームは進んでいく。
「特に面白くもないけど退屈でもない。百円のゲームならこれで十分かもね」
ボクのチームがリードしたまま試合が三回表にさしかかった時だ。いきなり雷鳴が轟いたかと思うと、球場は豪雨に包まれた。選手も審判もグラウンドから引き上げていく。
「こりゃまた変わったイベントだな。ここで一旦休憩を取れってことかな」
などと呑気に構えていたら、画面中央にでかでかと文字が映し出された。
『突然の豪雨により試合続行は不可能。この試合は無効試合、ノーゲームとなります』
そして問答無用で初期画面へと戻ってしまった。
「ええー! そんなのってあり!」
釈然としないボク。まあいい。またやり直せばいいんだから。気を取り直してゲームを再開する。しかし同じだった。三回表で必ず豪雨に襲われ試合は中断。初期画面に戻されてしまうのである。何度やっても同じだった。
「これが呪いというやつなのか」
それでもボクは諦められなかった。ネットでこの呪いを解く方法を必死にサーチ。やがて解決方法が見付かった。二回裏終了時に観客席が映し出されるが、その中にてるてる坊主を持った観客がいる、その観客をクリックすれば豪雨は降らないのである。その通りにやってみたら確かに豪雨は降らない。
「やった! これで続きができる!」
と喜んだのも束の間のことだった。雨が降らない代わりに次のような文字が映し出されたのだ。
『選手と審判の全員が熱中症で倒れたため、試合続行は不可能。この試合は無効試合、ノーゲームとなります』
そして問答無用で初期画面へと戻ってしまった。
「ええっ! そんなあ!」
それでもボクは負けない。再びネットでサーチ。二回裏終了時に白衣を着た観客をクリックすれば熱中症に罹らないのだ。てるてる坊主と白衣の観客を素早くクリック。豪雨も降らないし選手たちも倒れない。
「やった! これで続きができる!」
と喜んだのも束の間のことだった。次のような文字が映し出されたのだ。
『大地震発生により球場が損壊したため試合続行は不可能。この試合は無効試合、ノーゲームとなります』
そして問答無用で初期画面へと戻ってしまった。
「ええっ! そんなあ!」
そうしてボクはようやく気付いた。これは広大なネットの海からクリア方法を探し出すゲームだったのだ。この呪いに囚われたボクはもう抜け出せない。きっとこれから毎日、このゲームの解決法を検索する日々が続くのだろう。ボクの人生がノーゲームになるその日まで。The video name with no game……
このお話とよく似た題名の作品「The video game with no name」は、
https://kakuyomu.jp/works/1177354054880928816
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