イックさん(昔話)(800字)
むかしむかしある寺に、何かにつけて一句詠んでしまう小坊主がおってな。すぐに一句詠むので皆からは「イックさん」と呼ばれて可愛がられていたそうな。
ある日、イックさんは大金持ちの商人に招かれて、和尚様と一緒に都に向かったのじゃ。川に架かる橋を渡ろうとした時、立札にこんなことが書いてあった。
「このはし渡るべからず」
これを見たイックさん、たちまちのうちに一句詠んでしまった。
「端じゃなく 真ん中歩いて いきませう」
こうして二人は無事商人の屋敷にたどり着けたということじゃ。
またある日、将軍様に呼ばれて避暑地の別荘に行ったところ、
「毎晩屏風から虎が出てきてのう。余はほとほと困り果てておる。この縄で縛ってはくれぬか、イック殿」
と将軍に泣きつかれるや、イックさんはすぐさま、
「縛りましょう さあ屏風から 追い出して」
と一句詠み、将軍様の鼻を明かしてしまったそうじゃ。
さてそんなイックさんも大人になって、もう小坊主ではなくただの坊主になってしまっためでたい正月の朝、杖の頭に髑髏を
「門松は 冥土の旅の 一里塚 めでたくもあり めでたくもなし」
と詠んでおったそうな。それを聞いた都の人が、
「イックさん、今日は和歌をお詠みですか。歌は一句ではなく一首。となればイックさんではなくイッシュさんと呼ばなくてなりませんね」
などとからかい始めたのじゃ。しかし、そこは肝の据わったイックさん。平然とこう答えたそうな。
「いいえ、イッシュなどではありません。和歌は上の句と下の句からできております。二つの句でできているのですから、イックではなくニックと呼んでください」
これを聞いた都の人はなるほどと感心したそうな。
それ以来、イックさんはニックさんというニックネームで呼ばれることになったということじゃ。
めでたしめでたし。
このお話とよく似た題名の作品「イックーさん」は、
https://kakuyomu.jp/works/1177354054880483251
角川スニーカー文庫から絶賛発売中!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます