シンガーソングポリスはうちのエース

ちびまるフォイ

歌の力(笑)

「おいポリス! まだ曲はできないのか!」


「お待ち下され。もう少しにござります」


シンガーソングポリスは楽譜を急いで書き終えた。


「よし、それじゃ後は任せたぞ」

「御意」


しばらくして、シンガーソングポリスの歌を聞いた犯人は自供を始めた。

この警察署だけでなく、別の署でもポリスは有名人だった。


「歌で感動させて自供させるんだって?」

「おしゃれな捜査だね!」

「一度会ってみたいな! どんな人なんだろう!」


「はいはい、うちのポリスは忙しいんでね」


「全国ツアーとかしないんですか!?」



「それがし、アーティストではござりませんゆえ」


「「「 キャーー!! ポリスメン!! 」」」


噂のご本人登場で警察署は天地がひっくり返ったような大騒ぎ。

一味も二味もちがう男の人気はアイドルほどのものになった。


かといって、警察業務をおろそかにすることはない。


「署長、ここはそれがしにお任せつかまつる。いい曲が思いついたのでござります」


「おお、それじゃ頼むぞ」


ポリスにかかればどんな犯人も歌の力で自供する。

組織的犯行だって芋づる式にどんどん情報を引き出すことができる。


「これが歌の力か……まったく、素晴らしいな」


署長もご満悦。

えびす顔が崩れたのはポリスが警察署に現れなくなってからだった。


「おい! シンガーソングポリスが来てないじゃないか!」


「はい、ここ最近ずっと無断欠勤してまして……」


「彼がいないとうちの検挙率は一気に下がってしまう! ちょっと行って来い!」


しぶしぶ同僚がポリスの自宅に訪ねると、ぼろぼろのポリスが待っていた。



「久しぶりにござる……」


「だ、大丈夫か? 目の下にすごいクマできてるぞ……」


「実は最近スランプで曲が思いつかないのでござそうろう」


「そうだったのか……」


ポリスの部屋には散った楽譜とくしゃくしゃになった紙が落ちている。

いかに作曲に苦しめられているかがよくわかる。


「なぁポリス。歌わなくてもいいから警察署に戻らないか?

 実は最近、こっちの署に大型犯人が運ばれてきたんだ」


「知ってるでござる。レクニバル・ハンターでござろう?

 下着を食べるとかいう恐ろしい男でござる」


「知ってるなら話は早い。国はこいつから情報を聞き出せないかと

 君の力を求めているんだ。歌えなくても戻ってくれないか?」


「歌の力をなくしたそれがしなんて……」


いつまでもうじうじしているポリスに同僚はついにキレた。


「もういい! だったらもう来なくていい!」


「ど、どうする気でござるか?」


「お前に教えることはない!!」


同僚はポリスの部屋を出て警察署に戻るなり、学生時代かじっていたギターを取り出した。

これには署長も目を丸くした。


「き、君。いったい何をする気だね?」


「シンガーソングポリスになるんですよ。

 ちゃんと全力を尽くしたと国へ報告するにはこれしかないでしょう」


「それはそうだが……」


同僚はシンガーソングポリスになりきって犯人の前に出た。




Wow Wow 夢はかなうんだぜ。

君の夢だってどこかにある。


ほら、あの頃の君の姿が見える。


その背中には羽が生えてどこまでだって――



渾身の曲だったが犯人は爆笑して手をたたいた。


「あっははは! なんだそのありがちな歌詞は!

 まったく心に響いてこないね! "良い言葉"を並べただけじゃないか!」


「ぐっ……やっぱり俺じゃダメなのか……!」


「ああ、その通りだね。こんな歌詞じゃ人の心を動かすことなんてできない」




「そんなことはないでござる」


取調室にはシンガーソングポリスがやってきた。


「つたない歌詞でも心がこもっている歌は人の心を動かすのでござそうろう。

 たった今、それがしも心を動かされたのでござる」


「ポリス……!」


「いい歌、かたじけないでござる。それがしもいい曲が思いついたでござる」


ポリスは歌う準備をはじめた。


「犯人と、犯人を育ててくれたすべての人に送るラブソング。

 聞いてくだされ」


ポリスの言葉に部屋はいっきに感動ムードへと切り替わる。


これがシンガーソングポリスの力。

言葉一つで雰囲気をがらりと変えてしまう。


ポリスは息を思い切りすって歌い始めた。




そして、犯人はすぐに自供した。



「わかった!! もうわかったから歌を辞めてくれ!!!

 こんな音痴の歌を聞いていたら頭がおかしくなりそうだ!!!!」


警察署は検挙率をまたひとつあげた。

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