StraИgeRs

サニ。

第1話【Hello,world!】

「っだぁぁぁぁぁぁ!!!!極殺の黒炎様のお通りだぁぁぁぁぁ!!!!」

「ボスー!!待ってくださいっすー!!」

「先生って呼べや!!!!」


何も無い更地。ひゅうひゅうと風が吹く中、ある2人が走り抜く。1人は車椅子に乗り、黒のスーツを着て黒の手袋をはめ、眼鏡をかけた若々しい女性。もう1人は水色のロングヘアーに、同じ黒スーツを着て黒帽子を被り、傍らにボックス型のカバンを携えた長身の女性。その女性2人組は、何故こんなところでただ走っているのか。


「組織が無くなった今、アタシはもうボスじゃねええええ!!!!」

「それはいいんですけどもー!ちょっと待ってくださいっすよー!!」

「うるせえテメエには『左眼』があんだろが!!」

「いやそれは確かにそうなんすけど……!!」

「だったら黙ってついてこいやぁぁぁぁ!!!!」

「ボ……じゃなくて先生ー!!ほんと待ってくださいよー!!」


今、車椅子のエンジンを全力でかけて荒野を走る女、『ドルキマス=フォスター』と、その車椅子を必死になって追いかける女、『九十九 閉伊つくも へい』は、今夜泊まる宿がある街を必死に探している最中であった。


この、荒廃した地球の中で。



【第1話:Hello,world!】



ことの始まりは数十年前に遡ることとなる。

突如として原因不明の謎の大災害が地球を襲い、世界は一瞬にしてそれ迄の日常から終わりを告げた。海は大口を開けて何もかもを飲み込み、風は吹き荒び、大地はスクラッチのようにえぐれ、空はあたかもすべてを諦めたかのように真っ黒になった。当然、その影響で地球に住んでいた人間も、生きとし生けるものたちが息絶えていった。

しかしその中でもなんとか命を繋いだものがいたようで、世界の総人口はそれ以前の5分の1にまで減少した。こうなっては戦争どころではない。残った者達でどうにかして生きる術を手探りで見つけ、子孫を少しでも残そうと必死になっているのが現状だ。あるだけをかき集めて住まいを作ったり、どうにかして残った作物を使って農耕をしたり。とにかく明日のために皆必死なのである。今死ぬかもしれないし、今日も生き延びたと思ったらその瞬間死ぬかもしれない。生きるためには皆、身を粉にして動き続けるしかないのだ。


などということを思わせない者が、約2人ほどいるのは確かなようで。


「おらおせえぞ九十九ォ!!」

「そりゃ……っ先生は……っエンジン付きの……っ車椅子だから……っそう思うかもしれ……っませんけど……ねえっ……!!」

「おいおいもう息上がってんのかよスタミナ切れんのはえーな」

「こちとらずっと走ってたんすよ……ッ!!」

「ったくしゃーねえな。5分休憩したらまた走んぞ」

「勘弁して……」


ぜぃぜぃと息を切らす九十九に対し、呆れながら車椅子のエンジンを緩めてゆっくりと近づくドルキマス。


「ったくテメエはんとに体力ねえよな」

「いやいやいやうちももう人間の体やないすから」

「にしてはおめー、貧弱すぎんだろ」

「休憩なしの50分間全力で走り続けてりゃ、そりゃ体力も切れますから……!!」

「あー……そんなもんか?」

「そんなもんす!……ってあれ?」


そんな言い合いをしていると、九十九がふと何かを見つけたようで、遠くを見て声を出す。ドルキマスはそんな九十九を不審に思い、何があった、と警戒しがちに聞いてみる。


「いや、あれ……」

「はあ?……あ」


荒野の向こう側――吹き荒ぶ土煙を超えた先に、ぼんやりと見える恐らく建物の影。その影がぽつりぽつりと重なっているそこは、もしかしたら―――


「街、じゃないすか?」

「……」


その言葉に、ドルキマスは密かに目を鋭くさせた。



―――――――



「部屋は1つしか空いておりませんが、宜しいでしょうか?」

「ええ、はい。先生もそれでいいすよね?」

「おう。構わん」

「それではこちらの鍵をどうぞ。205室になります」


コトリとカウンターに置かれたルームキーを受け取ると、九十九はドルキマスの方へと向き直る。


「先生、行きますけど……階段平気でしたっけ?」

「さっき見てきた。あの程度なら別に問題ない。行くぞ」


そう言うとドルキマスは、先程から座っていたその車椅子からすっと立ち上がり、しゃんと背筋を伸ばしてコツコツと歩き始めた。その光景にカウンターにいた受付嬢は大層驚いた顔をする。九十九はそれをちらと見ると、そりゃそうっすよねー、と心の中で独りごちた。今まで車椅子に座っていた人間が、いきなり立ち上がってあたかも当然のように歩き始めたのだから。しかも平然と階段を昇っている。一体何が起きたんだとか、普通は思うだろう。


「(あの人の場合、『歩けなく』て車椅子に座ってる訳じゃないからなー……)」


九十九はそれ迄ドルキマスが座っていた車椅子を、携えていたボックス型のカバンをあけてその中に入れて仕舞うと、ドルキマスのあとを追うように部屋へと向かった。


「……今の人、車椅子カバンに入れてなかった?」

「入るもんなの?」


またしても信じられない光景を見た受付嬢たちは、その場で口をあんぐりと開けるだけだった。



―――――――



「さっきの顔すごかったっすねー。受付の人」

「アタシ見てねえぞ」

「いやー、先生が車椅子から立って平然と歩いてるの見てすんごい顔してましたよ!!あれは是非写真に収めたかったー。まさにクララが立ったー!みたいな!!」

「オメエアタシをなんだと思ってんだ」

「元一大マフィアのボス」

「……」


部屋に入ったあと、荷物を下ろすと九十九がそんなことを言い始めた。ドルキマスが九十九に多少の不満を混ぜつつそう言うと、帰ってきた言葉で言葉に詰まる。マジでそうじゃないすか、と言われると言い返せなくなるドルキマス。苦い顔をして九十九を睨めつける。


元々ドルキマスは、災害が起こるまで大規模なマフィア組織『フォスタファミリア』のトップに立っていた。その組織は主に貿易、特にドルキマスの好物である鶏肉とアボガドに力を入れていた。しかしながら裏ではかなり汚い仕事もしていたようである。災害後はお察しの通りだが。


「それともなんすか?極殺の黒炎とでも呼びゃいいんすか?」

「それやめろよ勝手につけられただけだし」

「えーでもお似合いっすよ。闇の瘴気を纏い、黒炎で炙り殺す!まさに先生じゃないすか」

「やめろ。やめろ」


九十九のその言葉に、ガックリとうなだれるドルキマス。その様子を見てケタケタと九十九は笑った。


極殺の黒炎とは、かつてドルキマスに付けられた異名である。ドルキマスは話に出たとおり、戦闘時には闇の瘴気を纏い、黒く染まった炎を操り、極めて残虐な殺し方をするのでこの名がついたとされている。ただ本人はこの名前をよく思ってないらしく、理由として「ネーミングセンス無さすぎダサい」とのこと。ちなみに九十九は面白いからいいじゃないすか、との一言をドルキマスにしたところ、アームロックを十数分ぐらいかけられたそうだ。


「現役時代はその能力を使ってどれだけの反逆者や他の組織の内通者を葬ったことか……」

「いつの時代の話だ」

「災害前すから、数十年くらい前すかね?」

「昔話にも程があんだろ。そのへんでやめてくれ」


ぷらぷらとドルキマスがそう言って手を横にふると、九十九はちぇーと残念そうに口を閉じた。


「つかコールドスリープ装置なんてよくありましたね」

「あー、確かなんとなく作ったってだけの装置だったからな。使い時も分かんねえし、テキトーにあすこに放置してたんだわ。ま、ちゃんと作動して良かったが」

「ちゃんと作動してなかったら、うちら今多分あの装置ん中でずっと寝てたっすよ……?」


そう言って九十九は、自らのカバンを開き、そこに手を突っ込んでドルキマスの車椅子を取り出した。ドルキマスは先程まで座っていた椅子から立ち上がり、広げた車椅子にドカッと腰を下ろした。


「ていうか、その足の呪い、ほんとなんなんですかね?災害による『呪い』なんすかね?ほんとに」

「それを追求するために今こうして旅してんだろうが」

「まあそう言われればそれまでっすけど……」


謎の災害が起こった直後、ドルキマスと九十九は急いで組織の地下室にあったコールドスリープ装置へと入り、災害をやり過ごした。しかしその時の影響か何か、ドルキマスの足に『呪い』がかかり、コールドスリープから目が覚めた時は実に、災害から数十年のあとの世界だということに気づくと同時に、全く『走れなく』なっていた。走るということ自体出来なくなっていたのだ。しかも長距離歩くこともままならなくなっていた。そこで、テキトーに作ってそのまま放置されていた車椅子を使うことで、こうして生活が出来ているのだが。


「走れねえのは問題だよな……」

「長距離徒歩も出来ねえすからね」


このまま車椅子生活を続けようにも、不便極まりない。それにマフィアも復活させたい。ついでにいえば今のうちに世界を牛耳りたい。そんなついでがついでじゃない目的で、丁度いいから九十九と放浪の旅をしているのが今。一向に解呪のヒントもなけりゃ、組織を作ろうにもドルキマスの気に入る人間にすら会えない。


「先生ー、そういやですねー」

「なーんだその気の抜けた喋り方ー」

「いや先生もじゃないすかー。さっき小耳に挟んだんすけどー」


九十九は備え付けのベッドにぼふりと体を投げ出したあと、気の抜けた声でドルキマスに話題を持ちかけた。


「なあーんかー、近々人身売買オークションやるみたいっすよー。ここ近辺でー」

「そうかー、それがどうしたー」

「そん中にぃー、どーにも人造人間レプリカがいるって話なんすよぉー」

「…………おい、まじか」


人造人間レプリカ、という言葉に、先程までぐだりとしていた体を急に前かがみにして九十九を問い詰めるドルキマス。九十九はそんなドルキマスをどうどうと押し止めるや、まあ小耳に挟んだ程度すけど、と続けた。


「もしかしたら、うちのバカ共がやってたあの研究の……じゃないすかねえ。なーんか目玉商品言うてましたし。つかレプリカ、あの後消息不明になってたっすよねえ。まさかとは思うっすけど……」

「おい、そのオークションやんのいつだ」

「へ?近々としか聞いてないすけど、多分あの様子だと明後日とかじゃないすか?」

「なんでそう言いきれる?」

「いやあ、なんか大掛かりなテントだかなんだか張ってたんで」

「へえー……?」


九十九の話を聞いているうちに、ドルキマスの顔はどんどん黒みを帯びた笑顔になっていく。九十九が気づいてぎょっとした時にはもう遅く、フフフフフと悪い笑い声を漏らしていた。あっちゃー、スイッチ入れちゃったか……、と九十九がため息をついている間に、ドルキマスは完全に悪いスイッチが入ってしまったようだった。こうなっては九十九が殴っても止まらない。


「一応聞くっすが、何しでかすつもりで……?」

「は?決まってんだろ」


ドルキマスは車椅子からすっと立つと、


「オークション行って、金目になりそうなもん奪ってくんのと、レプリカ確保だ」


とてもとても悪い笑顔で、自らの手から黒炎を燃え上がらせた。


「……それはつまり、オークション会場を襲撃するって意味すか?」

「バッカちげーよ」

「そんじゃどういう意味す?」

「普通に入り込んで、人造人間レプリカをとったら、その会場ごと燃やす」

「意味合い同じじゃないすか!どこが違うんすか!!」

「うるせえいきなり会場燃やしたらレプリカごと燃えんだろーが!!ソッチのほうがはえーけどな!」

「あ、やるきだったんすねえ」


とても悪い顔をしていたので、九十九は念の為に聞いたところ、ドルキマスから、あってないようで予想通りの答えをもらった。その答えに九十九は思わずツッこむものの、最ものような言葉がドルキマスから飛び出、妙に目つきを薄ませる。その顔にドルキマスは何だ、と、トーンを低くして九十九に投げるが、九十九は手を横に振りながらなんでもないっす!とごまかした。


「つか、立ってて大丈夫すか?」

「このくらいならなんともねえよ。つうかレプリカ、いなくなったと思ったらオークションに出されてたんか」

「驚きすねえ」

「大方、どっかのシャブ漬けクソビッチに見つかって、売りに出されたんだろうさ。ったく、あのクソビッチはやることがいちいちえげつねえ」

「(それ先生が言うんすか…)」

「なんだ」

「いえ!何でもないっす!!」


ぶんぶんとまた手を横に降ってごまかす九十九。ドルキマスはそんな彼女を訝しむが、ため息をついて思考の海に沈む。

ドルキマスの言う「シャブ漬けクソビッチ」というのは、災害前、フォスタファミリアに何かと因縁をつけてきた「ローゼンファミリア」のトップである、『マリア・サッチャー』のことである。ドルキマスたちが黒基調のスーツを基本としているのに対し、マリアの組織は白基調のスーツまたはドレスワンピースである。

ローゼンファミリアは、表はチャリティーやボランティアを主な仕事としているが、その裏では人身売買や臓器密売、果てはマリア主導で、麻薬取引や販売も行っている、極めてどす黒い組織だ。ヘタをすれば、ドルキマスのフォスタファミリアよりもタチが悪い。麻薬取引をトップ主導でやっているのならなおさらである。

そんな悪行もいいところのマリアを、ドルキマスは皮肉と蔑称の意をふんだんに込めて、『シャブ漬けクソビッチ』と呼んでいるのである。ちなみにクソビッチが本当かどうかと言われると、本当である。彼女は災害前から、数多の男(ただし見た目が良い方に最高クラスであることに限る)に、その体を許している。その後の男たちは神と彼女のみぞ知るが。


「って待ってくださいっす先生」

「んあ?」

「マリアって『今』でも生きてるんすか?あの災害っすよ?神の玩具(オーパーツ)とか、秘術みたいなもんとか、それこそ、うちらみたいに冬眠制御装置コールドスリープ・マシンでもない限り…」

「生きてるだろうよ。第一、アイツはどんな人間か忘れたか?」

「そりゃあ…まあ…わかってるつもりすけど…」

「あんなやつが、そうやすやすと災害ごときで死ぬか?死なねーよ、あのクソビッチは」

「…そんなもんすか」

「そんなもんだ」


確かに、ドルキマスと九十九は、コールドスリープマシンがあったからこそ、災害を生きながらえた。だが、そんな装置が、盗んだのならまだしも、マリアのローゼンファミリアが所持しているはずはない。無論、そんなものをつくろうという気さえ、災害前のローゼンファミリアにはなかっただろう。だが、一丁前に非人道的なことをしている組織である。なにかしらこさえてあって、それで災害を乗り切り、のうのうと今を生きていることも、可能性がないわけだはない。それにマリアは―――


「アイツ、アタシを自分の手で殺そうと躍起だったしなァ」

「あー、さいですか」


どんな手段を使ってでも、マリアは今生きているだろう。ドルキマスはそう確信していた。


「つうか…先生」

「なんだ」

「今回のオークション、ローゼンファミリアだってことは確定してないすよ」

「……」

「なんで連中だって口から出たんす?」

「……白昼堂々オークションやってんのあいつらしかいねえだろ」

「あ、もしかしてなんも確証もなしに口走ったっすか」

「うるせえ」

「つかいつからローゼンファミリアの話になったんで」

「……うるせえ」

「ほんとにただただ口走っただけなんすね」


やーいやーい、と九十九がドルキマスを煽ると、うるせえと、更に声のトーンを低くして睨めつけた。


「どうどう。んまあとりあえず、そのオークションが開かれないことには、なんとも言えないっすよー」

「そりゃそうだがな」

「それに、近いうちでしょうけど、いつやるのかわかんないっすよ?その状況で行動を今決めると、後の祭りになっちまうっす」

「でもだ。始まってからじゃ遅すぎる」

「うぬぬ」


九十九はドルキマスのその言葉に唸る。確かに始まってからじゃ遅い。始まってそこから動いても、すでに手遅れになる時だってある。が、早め早めにと準備が早すぎても、もし予定と違って見立てが狂ったら元も子もないのだ。

何しろ人身売買オークション。遅かれ早かれ、売りに出された者達は、人のいい者に買われなければ地獄を見ることとなる。それがもし買われたのがレプリカならばなおさらだ。

レプリカはオークションでは通常、人間としての自我が目覚める前に売りに出され、買った人間の手で目覚めさせる。レプリカはもとより、最初に目が覚め、なおかつ最初に見た人間を主人マスターとして認識する。そしてそのマスターに忠実に従う性質を持つ。それを利用して、自身の慰みものにしたり、『そういう性癖』のはけ口にしたりという人間が少なくない。金持ちほどそれ用のレプリカを多く所持しているほどだ。

ちなみに災害前より人身売買は禁止されている行為であるので、フォスタファミリアはそういったことをしている組織を壊滅することも請け負っていた。だが現状世界がこうなっては法律もクソもない。嬉々として商品を売ったり買ったりする輩はわんさか出てくる。


「そういうやつらをいっぺんにまとめて締め上げる絶好の機会だぞ?逃すわけには行かねーよ。それに、今の世界について一つでも情報を絞りだす必要もあるし、何より」

「何より?」

「大金を巻き上げることもできる」

「あ、そっちが本音すね」


ケケケ、といかにも人の悪そうな笑い声をあげてメガネをギラギラと光らせるドルキマスを見て、九十九はため息をつく。この人は絶対に敵に回したら最後、社会的にも精神的にも物理的にも躊躇なく自分を殺しそうだ。

というか、そもそもの話なんすけど、と九十九は口を開いた。


「今この世界で、『金』って…そんな影響及ぼしますかねえ。金があってもモノがなけりゃ買えないしょ」

「何言ってる。金だって、立派な『モノ』だろ。溶かして銀や銅にすりゃ、日常的に使えるモノに変えることも出来んだからよ」

「あ、それもそっか」

「それに紙幣だって、『メモ帳』にゃなるだろ」

「高額紙幣をメモ帳呼ばわりっすか」

「現状それぐれーにしか用途ねーだろ。いや、あることにはあるが」

「金持ちの間だけっすか」

「それもきたねえ用途だな」

「うす、なんとなくわかったっす」


げっそりした顔で九十九がそう言うと、ドルキマスはニヤリと笑う。ま、そういうこった、と付け加えて。


「だから、金は必要なんだ。アタシらの元の職業は何だった?」

「マフィアっすね」

「なら、なおさら必要だ」


その部分を力強くいうと、ドルキマスはさっさと飯食いにいくぞ!と、意気揚々と車いすに座り直し、部屋を出て行ってしまった。


「たしかにそう言われると、妙に納得するっすけどねえ…って」


とそこで九十九はハッとあることに気づく。先ほどドルキマスは、車いすのまま外へ向かった。そしてその先に在るのは、車いすでは下れない、階段があることに。

もしかして、車いすのまま階段降りたりなんてしないっすよね…?

九十九は急いで鞄を手にして扉を開き、


「ちょっ、待ってくださいっす先生ーッ!!」


と、宿全体に響くくらいの音量で叫んだ。



―――――――



「……」


ここはある場所。冷たく暗く、周りではすすり泣く音や、のんきにすやすやと寝息を立ている音が入り交じっていた。

そんな中で1人、じっと黙って地面を見つめる者がいた。


「……」


その者は、ニッとギザギザの歯を魅せつけるように



『嗤った』。

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StraИgeRs サニ。 @Yanatowo_Katono

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