夕照の銅駝街
壇上の乾杯の後は、太極殿の庭に集った全員に酒食が振る舞われて饗宴となり、倭人の為の朝会は
景初三年は二回目の十二月を経て、
正月朝見の儀式には、西からは
正月三ヶ日が過ぎると、張政たちは帰り支度を始めなければならない。外夷の入貢に当たって、滞在や旅行の費用は全て天子の名に於いて支出される。用が済んだら早く帰れ、と直ちに言われるわけでもないが、無駄に長居はしない方が覚えがめでたいに違いない。出発は十六日と決まった。それまでに故郷の人へ
洛陽に滞在している間、張政は何度か
それから張政は梯儁とおちあって、宮城の南を歩いた。そこは洛陽一の大通りで、銅駝街と呼ばれている。その名の由来は、ここに一対の駱駝の銅像が置かれている事による。張政は胡人が連れた駱駝という動物も洛陽に来て始めて実際に
「さあさ、もう日が暮れてしまう。暗くなる前にお帰り」
一人の老夫が声をかけると、子どもたちは家へと駆け出す。自分たちももう還るのだと張政は思いながら、名残り惜しみにこの老人と話しがしてみたくなった。白髭を垂らした老夫は、雑巾を銅駝の首に当てて、子どもたちが汚した跡を拭いている。銅駝の頭は人の背より高い。銅駝の後には銅馬・銅龍・銅亀といった像が
「
老夫は、やあ何処の人かな、と声を返す。
「なに掃除係なんてものはありゃしない。ただこうしたいからしているのじゃ」
「それで洛陽に帰ってみたくなって、炊事番に応募してな」
役目を済ませてから、洛陽が本貫である事を以って、朝廷より市中に住宅を給わった。
「それじゃ洛陽には懐かしいものが多いのでしょう」
と張政が問うと、老夫は
「いやはや……洛陽はすっかり変わってしまったよ」
でも、と梯儁が重ねて問う。
「洛陽は大魏の力で昔のままに再建されたと、みんな言ってるじゃないですか」
「なに、人も街も変わってしまった。天さえも変わってしまった」
梯儁はまた
「でも、何かあるでしょう」
老夫は銅駝の首を撫でる。
「いや、ないな。漢の昔を偲ぶよすがは……」
夕陽は低く光を射す。古びた銅駝は、ただ鈍く照り返してその影を濃くする。新しい洛陽の街並みは、赤々と染まって、董卓の災いを想わせた。
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